黒金の顎

「さて、初めての依頼だけど緊張してる?」

「意外としてないっすね。」


俺とクロ、姐さんことヒビキは車で依頼場所に向かっている。

ちなみに運転手は俺だ。


「時期的には河童は大量発生しやすいのよね。」

「河童にシーズンなんてあんの?」

「シーズンっていうか、夏になるとキュウリ求めに人前によく出てくるの。それ以外にも、河川敷とかの川沿いで相撲の誘いしてるわよ。」

「負けたら尻子玉抜かれるやつだな。」

「昨日言ってたやつか。」


クロがあくびをしながら頷く。

今は七月序盤だし、時期は確かに合ってるな。


「依頼主は農家や川の近くに住んでる住民が多いし、色んな被害が出てるんだろうね。」

「なんか害獣みたいな扱いだな…てか、妖怪って誰でも見れるんすか?」

「あれ、まだそこら辺は教わってない?」

「はい。」

「そうだねぇ、基本は見えない。でも特殊な体質だったり、看破の術を使えば見える様になる。」

「それか憑依を経験すれば見えるようになるぞ。」


確かに、俺はクロと出会ってから見える様になったしな。


「看破の術って?」

「色々あるのよ。鏡を使った術やレンズ、円を使った術なんかもある。ただ、一番有名なのは狐の窓ね。」

「狐の窓?」


姐さんは両手に狐を作り、変形させ、窓枠の様な形を作る。


「これを使えば誰でも相手の正体が分かるの。でも、同時にこっちが見てるのも、正体もバレてしまう。使い勝手はいいけどそれ相応のリスクもある術よ。」


私たちには必要ないけどね〜、と付け足しながら話す。

意外と妖怪を見れる人は多いようだ。

そんな話をしていると、目的地が見えてきた。


「ここら辺っすね。」

「見ればすぐに分かるな…」


クロはドン引きしながらそう言う。

目の前には大きな川と、


ガヤガヤガヤ


気持ち悪いほどの河童たちがいた。


「これは初めて見たかな…」

「これ全部深海に返すの?無理じゃない?」


車を近くのパーキングに止めて歩いていく。


「一応聞くけどさ、アキラ君ってどうやって深海に行ってるの?」

「鈴を持った状態で水に触れれば、それが深海への入り口になる。念じてもできますけど、その場合はあんま大きいのは作れないっすね。」

「水か…川あるし、一気に返すことはできそうね。」

「流れも早くないし、なんとかなりそうだな。」


入り口は水であればなんでもいいのだが、できるだけ静止している水の方が安定するし、長い時間開いていられる。

川は少しきついが、この川は緩やかだし大丈夫だろう。


「私が追いやるから、入り口作っておいて。」

「了解です。」

「やるよ、ゴロちゃん。」


姐さんが呼びかけると、雷獣ことゴロちゃんが姿を現す。

俺はクロと憑依をして少し上流に行く。


「ここら辺でいいか。」

『じゃあ繋ごうぜ。』


川に手を突っ込み、下流方向に入り口を作る。

姐さんに準備完了の合図を送ると、姐さんはどこか焦った様子だった。


「クロ、姐さんなんて言ってるか分かるか?」

『えっと、危ない、川…中?』

「…もしかして!」


急いで川から手を離そうとすると、入り口の範囲外から何かに手を掴まれて引き摺り込まれる。

川の中を見ると、俺を掴んでいたのは河童だった。


「くっそ、クロ!」

『おう!』


クロの火が俺の腕を囲むように現れた。

これは、あの短期修行で得た初めての技。


「一式…」


火は手の部分で膨らみ、鋭い形へ変化する。


『「火顎かがく!」』


河童の腕を、黒と金の混じった火が噛みちぎった。

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