初の依頼

百鬼に所属してから暫く経った。

俺はここでのルールや妖怪とは何か、深海とは何かを学び、接し方を変えている。

ヤマトのことはここのリーダーなのでキャップ、ヒビキはあねさん、リーガルはリーさんと呼んでる。

フブキとセツはそのままだ。

今日はキャップに呼ばれたため、ボーリング場に行く。


「アキラ、お前の初任務が決まったぞ。」


キャップはそう俺に言い放つ。

…なぜか軍服を着た状態で。


「キャップ、その格好は?」

「私語は厳禁だぞ、ブラックキャット。」

「あんた絶対変な映画にハマっただろ。」


最近分かったことは、キャップは何かに影響されやすいと言うことだ。

この前は野球漫画にハマったからか、一日中素振りしてたし。

今回は戦争系のにハマったようだ。

はっきり言って面倒くさい。


「これダメか?」

「ダメじゃないですけど、真面目な話するときはやめて下さい。」


キャップはしょんぼりしながら帽子を取り、咥えていたココアシガレットを食べる。


「それで、さっきの初任務は本当なんすか?」

「あぁ、明日の朝にここに向かってくれ。今回はバディとしてヒビキを連れて行かせる。」

「なんで姐さんが?」

「俺とリーガルは別任務がある。フブキは学校だ。」


そういえば、フブキってまだ高二か。

ちなみに、百鬼での最年長はリーさんらしい。

36歳の妻子持ちだそうで、聞いた時は本気で驚いた。


「分かりました。これって駆除なんですか?」

「いや、駆除ではない。だが、そうなる可能性も十分あるから気を付けてくれ。」

「うす、クロにも伝えてきます。」


俺はそう言いその場から去り、ゲーセンにいるクロを探す。


「クロ〜、どこだ〜?」


歩きながら探していると、クレーンゲームの中でふかふかの人形に囲まれて丸まっている黒い物体を見つけた。

俺はクレーンを動かしてその物体の頭を掴む。


「むが?!」

「あ、起きた。」


黒い物体ことクロはクレーンから抜け出すと、筺の中から出てくる。


「何すんだよアキラ!」

「お前はどこで寝てんだよ。」


クロはフシャーと言って俺を威嚇してくるので、懐がら昨日買ったジャーキーを渡す。

コイツは猫缶やチュールは嫌いだが、焼き鳥やジャーキーなどおっさんっぽい食物が好きらしい。

塩分がやばそうだが、妖怪だし大丈夫だろ。


「明日、俺らの初依頼だとよ。」

「だゃれか…にっちょに…くりゅのか?」

「なんて?」

「ングング…ゴクン。誰か一緒に来るのか?」

「姐さんが付き添いだとよ。」

「げ、あの落雷女が一緒なのか…」


クロが姐さんことヒビキを嫌がっている理由は、よく吸われるからみたいだ。

最初こそクロも気にしてはなかったが、流石に回数が多く吸われるのが苦手になったらしい。


「まぁ駆除ではないらしいし、すぐ終わるだろ。」

「そういう問題じゃない…」


俺はクロの首根っこを掴んで、一緒に依頼書を見る。

内容としては川に出た河童を深海に帰してくれとのこと。

確かにこの依頼は俺向けの内容だ。

どうやら百鬼の中で深海にまともに行けるのは俺だけだ。

妖怪のセツは別として、半妖のキャップ以外は深海と陸の間にすらいけないらしい。

キャップは入れなくはないが、不法侵入の様な形になるらしく碌な目に遭わないとのこと。

理由は皆んなパスを持っていないからだ。

パスはおそらくあの鈴だろう。

この前牛鬼とやった時に無くしたと思っていたのだが、念じればどこからでも現れるようになった。

俺はこの鈴に所有者と認識されたそうだ。


「河童って危険なのか?」

「きゅうりあげたらなんもしてこないと思うぞ。ただ、相撲をして負けたり怒らしたりしたら尻子玉抜かれるぞ。」


尻子玉?


「尻子玉ってなんだ?」

「オイラは魂だって聞いたことあるぞ。」


めっちゃ危険じゃない?

魂抜くヤツと俺明日会うの?

スッゲー嫌なんだけど。


「落雷女がいるなら大丈夫だと思うぞ。」

「そうかな〜、怖〜…頑張るか。」


俺はクロの背中に顔を埋めながら明日の依頼への決意を固めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る