第9話 高校生 見舞う
「奏太、大丈夫か?」
今朝、奏太は事故に遭った。
しばらく入院だそうだ。
みんな心配して見舞いに来たがったけど、いっぱい来たら迷惑だとクラス委員の池田さんが言い出した。
話し合った結果、僕が代表で見舞いに行くことになった。
僕の手には託された花束やメッセージが大量にある。部活のみんなの分もある。
これを書いた直後に、先生が来て奏太は退院まで時間がかかるからコンクールは無しだと言って去って行った。
せっかく頑張ろうと思ってたのに、こんなことになるなんて……。
一番辛いのは奏太だ。明るく励まさないと。
「おう! 大丈夫だぜ! いやー参ったよ。まさかトラックが突っ込んで来るとはな。骨折くらいで済んでラッキーだぜ」
こんな時も、奏太は明るい。
「みんなに謝っといてな。俺、絶対コンクールまでに治すから!」
治す気なんだ。やっぱり奏太はそんな奴だよな。
よし、僕も頑張ろう。
もっと、練習しよう。
「分かった。必ず伝える。僕、いっぱい練習するから。絶対に全国行こうな」
「おう! 去年は支部大会までいったんだぜ。ま、支部大会で銅だったんだけどさ。今年こそ金賞取って全国に行くぜ」
「そうなの?! どうりでみんな上手いわけだ。なんで部員あつまんないのさ。支部大会まで行けるってかなり凄いと思うけど」
「元々人数少ないうえに、部活があれだけあればなー。うちってバイトオッケーだからさ、みんなキツイ部活に入りたがらないんだよ」
「あー……なるほどね。確かにクラス少ないもんね」
その割に部活の数はめちゃめちゃあるもんな。
吹奏楽コンクールは、金賞、銀賞、銅賞しかない。全ての学校に賞が付く。以前の僕なら銅賞で落ち込んで、銀賞ならホッとして、金賞なら大喜びだったと思う。
中学校の吹奏楽部はいつも銅賞だった。だからせめて銀賞が欲しくて頑張ってた。僕が辞めてから銀賞を取ったといじめっ子が馬鹿にしてきて、惨めで悔しかった。
全国大会に行くには地区大会や都道府県大会で金賞を取って代表になり、さらに支部大会で金賞を取って代表にならないといけない。
今までと比べものにならないくらい、練習する必要がある。
奏太は、去年までの様子を教えてくれた。
「去年までは先輩が上手くて、先生も熱心だったんだよ。だから支部大会まで行けたんだ。先輩達のためにも、頑張りたいんだよな。けど、今年から入った明智先生はあんまり練習見に来て来てくんないんだよ。本当は外部講師を呼んで練習したいのに、あんまやってくれねーんだ」
「そういや、顧問の先生ってあんまり見ないよね」
「おう。コンクールにも興味ないみたいでさ。美琴が辞めたって報告したら、コンクールは出られないなってあっさり言われたぜ。すぐ奏太が入ってくれたから良かったけど、明智先生は出場辞退するつもりだったみたいだ」
「先生が働きかけてくれたら、もうちょっと部員も集まったんじゃない?」
「そうかもなー。授業の準備で忙しいんだだろうな」
「確かに、明智先生の授業って凝ってるよね」
顧問の明智先生は、日本史の先生だ。授業は無茶苦茶面白い。毎回凝った資料やプリントを配ってくれる。
けど、部活には興味ないみたい。
今日も奏太が怪我したしコンクールは出られないからしばらく休みだって言い残して帰っちゃった。
奏太なら大丈夫だろうって言ってた部員の子達はみんな落ち込んでたよ。
まずは、あの先生の説得から始めないと。
ああ言った以上、奏太はきっとコンクールまでに怪我を治す。それまでにたくさん練習しないと。みんなでコンクールに出るんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます