第6話 高校生 歓迎される
「今日から入部してくれる黒田宗太郎君です」
「部長! もしかして、コンクールに出れますか?!」
期待のこもった目で見つめる5人の女の子と、1人の男の子。奏太を含めて7人。これで部員は全員らしい。顧問は今日は出張。
あんまり部に顔を出さないそうだ。
僕の知ってる吹奏楽部に比べるとかなり人数少ない。
「ああ! まず合奏してみよう!」
早速楽器の説明を受ける。僕が担当するのはパーカッション。ひとりで3つの楽器を演奏する。
え、これキツくね?
楽譜を見ると、複雑な演奏はない。叩いてみたけど、パーカッションだし音は出る。けど、1人でやるの?
「ねぇ、パーカッションってひとり? 何人かいるんじゃないの?」
「普通はそうなんだけど、うちは人数いなくて」
各楽器の担当はほとんど1人。奏太は無茶苦茶トランペットが上手いけど、やっぱり1人。
他の人達も、上手い。
けど、やっぱり1人ずつが多い。
……ここにパーカッションが無いとなると、コンクールを諦めるのも理解できる。
「分かった。ちょっと時間を貰える?」
「もちろん! みんな、パート練習しておこうぜ。宗太郎、気になることあったらなんでも言ってくれ!」
「じゃあ早速聞くけどさ、パーカッションのここって音かぶるよね? 1人でどうやってんの?」
「美琴は楽器を横に置いて、右手と左手でバラバラに演奏してた」
「結構きついね。ちょっと練習してみる。右手がえっと……これなんだったけ?」
「コンサートチャイムだな」
「コンサートチャイムね。これとティンパニを同時かぁ……しんどいな」
「やっぱ駄目か……美琴も頑張ってくれたんだけど、こんなの無理って怒って辞めちゃったんだよ。何度も戻って来てくれよう頼んだけど、俺と同じトランペットなら戻るって聞かなくて。あの子、本当はトランペットがやりたかったんだ。今日、もう一回戻ってきて欲しいって頼んだんだけど俺の言い方が悪くて。宗太郎が入ったならパーカッションは2人も要らないだろって怒っちまって。……俺、悪い事しちまった」
「仕方ないですよ。実際2人欲しいんですから。トランペットをさせてあげられたら良かったけど、無理なものは無理です。うちは人数ギリギリでトランペットは部長だけなんです。美琴が辞めたから俺達でパーカッションを兼任できないか試したんだけど、どうしても無理で……」
「この楽譜を見る限りパーカッション専任の人が絶対いるよ。それは僕が頑張るけど……この部分はちょっと厳しいかも……コンサートチャイムって音階あるでしょ? ただ叩けば良いわけじゃないし、ちゃんと見ないと難しいよ」
「やっぱりもう1人どうにか探すしか……」
「みんな部活決めちゃってるし無理だよ!」
また諦めムードが漂う。奏太が泣きそうな顔をして俯いた。なんとかしたい。必死で頭を働かせる。
同時が無理なら、どちらかを削れば良いんじゃないの?
「被るのはここだけだよね? コンサートチャイムだけにして、ティンパニをやらなければいいんじゃない? 逆でもいいけど」
「これは課題曲だし、楽譜通りに演奏ししなきゃいけなくて」
そうだった。ここはどうしても楽器が2ついるのか。みんな、一言も話さず僕らを見つめている。期待と絶望が入り混じった視線。
よっぽどコンクールに出たいんだな。
なにか方法はないか。僕は楽譜を睨むように見つめ続ける。
「ちょっと時間ちょうだい」
鞄からペンケースを出して、楽譜をパズルのように見つめる。
「奏太、本番のみんなの立ち位置を教えて」
「あ、ああ!」
奏太の指示に従い、みんなが椅子を並べて座る。やっぱり少ないな。
けど、みんなやる気がある。なんとかしたい。考えろ、考えるんだ。
「楽器も持って」
「わ、わかった!」
楽譜を見つめながら、みんなに演奏してもらうと、ある事に気が付いた。
「奏太のトランペットはここからここまでは演奏ないよな」
「うん」
「ならさ、ティンパニをここからここまでは叩いてくれない? あとはなんとかいけるからさ。奏太はトランペットを構えたらすぐ演奏できるだろ?」
「そっか、俺がやればいいんだ。なんで気が付かなかったんだろう」
「部長はティンパニの後すぐソロがあるから厳しくないですか?」
「そうですよ。部長のソロがアピールポイントなんですよ!」
「いや、いけるかも。ちょっと準備する。すぐやってみよう!」
ソロがあるから奏太はパーカッションが出来なかったのか。
……けど、奏太なら出来る気がするんだよな。
不安そうにしていた人達の目が少しずつ輝き始める。音楽室に明るい日差しが差し込んだ。まるで僕達を応援してるみたいだ。
「部長! 黒田先輩も入れて、合奏してみましょう!」
「待って、僕は初心者なんだから時間ちょうだい! コンサートチャイムの叩き方を教えて!」
1時間後、僕も加わって合奏してみた。奏太がティンパニをやれば忙しいけどパーカッションは全て僕1人でいけた。
奏太はティンパニの横に台を置き、トランペットを仮置きする事にした。ティンパニを叩いてすぐ奏太のトランペットのソロだ。
慌ただしいのに奏太のソロは見事で、みんなが彼の演奏に聴き入った。
僕は初心者だから音がめちゃくちゃだったけど、部員のみんなは大喜びで泣いている子までいた。
「これならコンクールに出られる! 金賞とって、全国に行くぞっ!」
奏太の声が部屋中に響き、みんなが僕にお礼を言ってくれた。くすぐったいけど、とても心地良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます