第5話 高校生 入部を決める
「はぁー……」
奏太は部活が終わってからも家の近所にある広場でトランペットを吹いている。僕らは家も近所だったから、たまに練習している奏太に会いに行く。
最近は奏太のトランペットを聴くのが楽しみになっていた。
けど、今日行ってみたら奏太はトランペットを握りしめてため息を吐いていた。
「どうしたんだ? 奏太?」
「あー……宗太郎か……いや、なんでもないんだ」
「なんだよ! 言えよ! 親友だろ?」
「あの、さ。いや、やっぱりなんでもない!」
「なんで言わないんだよ!」
親友なのに。胸がズキンと傷んだ。
「もういい。奏太のバカ!」
こういう時、自分は子どもだなって思う。どうやって友達と接したら良いか分からない。ほら、奏太も困った顔してるじゃん。
謝らなきゃ。
なんて言えば良い?
バカって言ってごめん?
それだけで良いの?
ちがうよね。どうしよう。
ああ……奏太がトランペットを片付け始めた。
嫌われたかな。
……また、虐められるかな。
「ごめん。宗太郎」
僕が謝らなきゃいけないのに、奏太が頭を下げた。
「言うから、聞くだけにしてくれるか?」
「……う、うん」
「実はさ、部員が1人辞めちゃって」
「……え」
「勧誘しないって約束したろ? だから言いにくくて。傷つけてごめん。コンクールに出れなくなっちゃうから、どうしようか悩んでたんだ。パートを調整すればいけるかな。でももうギリギリだよな。どうしようって。それだけなんだ。宗太郎を頼ってないとか、どうでも良いとか思ってるわけじゃないんだ。こんな話聞いたら宗太郎は優しいから悩むだろ? 親友、悩ませたくなくてさ」
「そう、だったんだ」
「宗太郎は楽器が苦手だろ? こんな話しちゃったら部に入ろうかって思うじゃん。悩ませるじゃん。だから言えなかったんだよ。勘違いさせてごめんな」
「ううん。僕こそいきなり怒ってごめん。ねぇ、辞めちゃった部員って何年生?」
「1年生だよ。パーカッションに入ってもらったんだけど、本当は俺と同じトランペットがやりたかったんだって。けど、人数ギリギリでさ。無理言ってパーカッションに入ってもらったんだ。結構たくさんの楽器を1人でやらなきゃいけなくて……やりたかった楽器とも違うし……部のメンバーとも合わなかったみたいでさ」
「吹奏楽って、好きな楽器ができるとは限らないんだな」
「うん。もっと人数いれば良いんだけど、うちはギリギリだから。楽譜によって、演奏する最低限の人数が決まってるんだ。本当はもっとやりたい曲があるんだけど、人数足りなくてさ」
「なるほど。その抜けたパーカッションのパートって難しい?」
「やる事は多いけど……1年生向けだしそんなに難しくないよ」
「楽譜が読めれば、いけるか?」
「多分……どうしたんだ宗太郎?」
「僕、吹奏楽部に入るよ」
「めっちゃ嬉しいけど……良いのか? 楽器は苦手なんだろ?」
「嘘吐いてごめん。僕、ピアノやってたから楽譜が読めるんだ。パーカッションは未経験だけど、少しだけドラムもやった事あるよ。あの時は人と関わるのが怖くて断ったけど音楽は好きなんだよ。吹奏楽の経験……えっと……役に立てるか分かんないけど、頑張るからさ。僕が入ればコンクールに出られるんだろ?」
「本当に? いいのか?」
「いいよ。やるからには真面目にやるし。だから色々教えてくれよ。部長」
「ありがとう! 明日早速みんなに紹介するよ」
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