第4話 高校生 親友と電話する
毎週恒例になっている光子との電話。お互いの近況を話したりするんだけど、今日の光子は元気がない。
「光子、なんかあった?」
「なんにも。それより学校どうよ? 友達できた?」
いつもの明るい声に安心して、僕は近況を話し始める。
「うん! できたよ! みんなのんびりしてる学校で過ごしやすいんだ。親友もできたよ!」
「……親友?」
「うん。木下奏太って言うんだ。吹奏楽部の部長だよ」
「そっか。初めての親友だね。良かったじゃん」
光子の声が、どこか寂しそうだった。だから思わず言ったんだ。
「光子も親友でしょ? いつもそう言ってくれたじゃん」
「……そう、そうだよね。ねぇ、その奏太君ってどんな人なの? 宗太郎が親友って言うんだから良い人なんだろうな。宗太郎と奏太君って名前似てるよね」
「そうなんだよ! 最初に話しかけられたきっかけも、誰かがお前ら名前似てるよなって言い出してさ。それで話すようになったんだ。奏太のやつ僕を吹奏楽部に誘おうとしてさ。あ、うちの学校って部活必須なんだよ。僕は3年になるし入らなくて良いって言われたけど、他の人はみんな部に所属してるんだ。吹奏楽部は人数が少ないんだって。うちの学校部活が多いんだよ。だから人数少ない部が多くて」
「へぇー、高校で部活必須って珍しいわね。そんなにたくさん部活があるの?」
「うん。なんかいっぱいあってみんな全部知らないみたい。3年生になると早めに引退しちゃう人も多いし、幽霊部員も結構いるよ。でね、部活の兼任は駄目なんだ」
「兼任は駄目なの? なんだか変わったシステムね」
「そうなんだよ。なにかひとつに打ち込む方が良いって先代の理事長の方針でそうなったらしいんだけど、形骸化してる気がするよ。部活に入ってないのは僕だけだからって奏太のやつ何回も僕を勧誘してさ。しつこいってクラスメイトが止めてくれたんだ」
「えー……なにそれ。そんな強引な人が親友って大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。奏太はいい奴なんだよ。約束したから、もう部活に勧誘されなくなったよ。ちゃんと謝ってくれて、僕と友達になりたいって言ってくれたんだ。色々話してたら音楽の趣味も好きなテレビも一緒でさ、あっという間に仲良くなったんだよ」
「テレビに音楽か。いいね。高校生って感じ。宗太郎、声が明るくなったよ。引っ越して良かったね」
「うん。今は楽しいよ」
「……良いな。私もそっちに行きたい」
「夏休みに来る?」
「行きたいけど、東京で神社の仕事もあるし受験勉強の追い込みもしたいから」
「そっか。そうだよね。そっちに行っても邪魔ばっか入るし……夏休みは東京だよね? まだ約束はできないけど、遊びに行けたら行くよ」
「ほんと?!」
「うん。うち、引っ越してからだいぶ家の雰囲気良いんだ。母さんは顔色も良くなって明るくなったよ。家族でゆっくりご飯食べれるようになったんだ。光子の話をしたから、会いたいなら旅費を出してあげるって父さんが言ってた。福岡に行くより東京の方が近いし安いからさ。新幹線に乗ったら東京に行けるんだ。東京に遊びに行ったクラスメイトも何人かいたよ。スマホいじってたらすぐ着いたとか言ってた」
「嬉しい! 会えるの楽しみにしてるね」
「うん。奏太も誘ってみるよ。みんなで遊ぼう」
「奏太君は吹奏楽で忙しいんじゃない?」
「あーそっか。最後のコンクールがあるって言ってたもんな」
この時、光子の声が少し震えている事に気が付けば……この後起きる悲劇は避けられたのかもしれない。
だけど僕は鈍くて、楽しい学校生活や新しくできた親友に夢中で……必死で戦ってる大事な親友の気持ちに気付いてあげられなかった。
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