カセットデッキは貸せない

尾八原ジュージ

カセット

 カセットデッキかぁ。

 昔は編集部のやつがあったけどねぇ。でも今は使わないからなぁ。それに――ちょっとあったもんでね、あってももう貸さんのよ。


 ちょっとっていうのはねぇ。

 むかぁし、僕が君くらいの若い頃にね、同期の男性記者が亡くなったことがあってさ。

 会社の寮でベランダの手摺にロープかけて首吊ったのよ。そいつ、若手のホープって言われるような子だったから皆びっくりして、なーんかきっかけがあったんじゃないかって誰かが言い始めた。

 そしたら同じ部屋の奴がさ、一昨日あたりに小包届いてからちょっと様子がおかしかったって言うわけ。それが手紙とかついてなくて、ただカセットテープが一個入ってたっていうんだな。

 じゃあそれに原因があるんじゃないかって、その同部屋の奴と彼の上司と、それからあともう一人、人事部の人だったかな? 聞いたらしいのよ、そのテープ。最初に思い浮かぶのってやっぱ、告発文みたいなものだよね。だからドキドキしたらしいけど。

 でも、そういうのじゃなかったんだって。

 60分のテープいっぱい、ずーっと誰だかわからない女の笑い声が入ってたって。

 上司と人事の人は早送りしながら聞いたらしいけど、同部屋の奴はそれじゃ納得いかなくて、そのあと一人で60分、ずーっと再生してみたらしいのね。でもやっぱり笑い声だけだったんだって。

「何だろうなアレ、気持ち悪い。呪いのテープじゃないかな」

 って、ちょっと笑ってたけど。

 その晩、そいつも部屋で首吊ってね。

 それで上司が、あのカセットテープは捨てなきゃ駄目だって言ってさ。遺族もまだ入らないうちに、そいつの部屋に乗り込んでテープ探したんだって。でも、どこ探しても見つからなかったって。

 厭だよねぇ。もう三十年近く経つんだけどさ、僕ぁ未だにそのテープがどこかにあって、誰かのポストにひっそり届いてるような気がしてさ。しょうがないのよ。


 だからさぁ。

 君に何が届いたのか知らないけど、そんな得体のしれないもの、聞かない方がいいと思うよ。

 とにかくカセットデッキは貸せない。いいね?

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