第12話 だめ
「和音。あんた。三十年経っているのに、ぜんっぜん変わってないな」
「三十年?」
病院の診察室兼治療室にて。
涙を流しながら突進してきた和音を見た笙斗が、三十年経っても外見が全く変わっていないのは精神が全然成長していないからかと納得していると、和音は首を傾げながら、三十年って何と尋ねてきた。
「俺、解毒するのに三十年かかったんだろ?」
「違うよ。三十日。三十日間も。目を、開けなくて。本当に。本当に」
「死んだかと思ったって?あんた本当に、俺の育て人?」
笙斗は白い目で和音を見た。
気に食わなかった。
たかだか人間が作った毒ごときで死ぬと思っている和音が。
ドタバタと慌ただしく冷静に行動できていない和音が。
(あ~ダメダメ。子ども孝行するって決めただろ)
まだ本調子ではないらしい。
些細なことで苛々してしまう。
受け流すんだ、自分。
こいつは未熟なんだ、長い目で見ていかないと。
「ごめん。笙斗。私はつくづく。ダメダメだ」
心配させて悪かったと言うつもりだった笙斗はその通りだと思いつつ、いつになく落ち込んだ和音を見て落ち着かなくなり、とりあえず回復したから一緒に帰ろうぜと言おうとしたが、その言葉も飲み込む羽目になってしまった。
和音が先に話したからだ。
「師匠がさ。竜木から出てきたんだ。だから、笙斗の育て人、師匠に任せようと思ってる」
「………あっそ。自分じゃ手に負えないから、師匠に任せるって?」
「………うん」
「ふ~ん。和音がそうしたいならいいんじゃね。俺は誰でもいいわけだし」
「ごめんね」
「別に。ただ、まだ和音は竜の育て人にはならない方がいいんじゃねえの」
「うん」
「………俺、神谷と話があるから」
「私が家まで送っていくから」
そう言ってくれた神谷にお願いしますと頭を下げて、和音は診察室兼治療室から出て行った。
「ごめんね。おちゃめな心がうずいて、三十年って言っちゃって」
ぺりぺりと特殊メイクを外しながら神谷が言うと、笙斗はどうでもいいしと返しつつ、俺もう退院していいのと尋ねた。
「いいけど。いいの?」
「何だよ、俺次第かよ」
「違うよ。そうじゃなくて、本当に竜の育て人を和音君から師匠さんに変えていいのかって尋ねているんだよ」
「いいよ別に」
しれっとした表情で言った笙斗に対し、神谷はそっかあと、にこやかな笑顔で返したのであった。
(2023.12.11)
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