第11話 やっと




「ん?あれ?ん?ここはどこだっつーか。来たことがある」


 眠った覚えもないのにベッドに寝かされていた笙斗に生じた少々の混乱は、見たことがある光景を前にして霧散した。

 ここは、竜専門病院の診察室兼治療室だ。


(んんん?おかしいな。俺は何でここにいるんだ?)


 確か。

 子ども孝行をしてやろうかと、まだ毒の自己治癒が済んでおらず重たい身体を動かして、竹庭の持ち主の目を盗んで抜け出し、大通りに出て、和音の元へ、自分の家に帰ろうとしていた。


「ああ。やっと目覚めたね」

「おう………ん?」


 聞き慣れた声だったが、見覚えのない顔だった。

 いや、若干、少々、見慣れた顔が重複するような、しないような。


「じいさん。誰だっけ?」

「はは。おまえの専属イケメン医者の神谷こうやだよ」


 ウインクされた笙斗は、聞き慣れた名を言った神谷の顔をじっと見た。

 確かに、見慣れた神谷の面影があるような、ないような。


「神谷って、三十歳とか言ってなかったっけ?」

「おまえと最後に会った時は確かに三十歳だったけど、今は六十歳だよ」

「六十歳?人間は一日過ぎると一歳年を取るようになったのか?」

「ははは。違うよ。三百六十五日間が一年間で、その一年間が三十回過ぎたんだよ」

「つまり。俺は解毒するのに、三十年かかったってことか?」

「そうだね」

「ふ~ん」

「驚きが少ないなあ」

「別に。人間にとっては違うだろうけど。俺たち竜にとって三十年なんて、短い時間だし。ところで、和音は?」

「うん」


 軽かった口が急に重くなった神谷を見た笙斗は、死んだのかと軽い口調で尋ねたのであった。











(2023.12.11)



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