第10話 でも




(このまま死んだことにして自由になろうかなー)


 この竹庭の持ち主らしき人間が騒がしくする中で、地面に伏せった笙斗は考えた。


 行動の自由はあるが、基本的に竜はずっと竜の育て人といなければならないし。

 これからもずっととうもろこし石を食べないかと言われ続けるだろうし。

 竜の玉を創造し続けて竜の育て人と一緒に金を稼いでいかないといけないし。


 幸い、全身に回った毒は自己治癒できるものだった。

 この竹庭の持ち主らしき人間が、竜が倒れている早く竜専門の医者を呼べだの、この竜の育て人を呼べだの騒ぎ立てている間、大勢の人が集まる前にこっそりとこの場を抜け出せば、死に際を見せたくなかったのだろうと判断されて、晴れて死んだことになるのではないか。

 死んだことになったこの国から離れて、別の国で自由を謳歌すればいいのではないか。


(あ。でも。たしか)


 竜の育て人は担当する竜が死んだ場合、重い罰を課せられた、ようなそうでもないような。


(それに、あいつ。和音。俺は死んでないって。この国だけじゃなくて、他国まで探しそうだよなー。地の果てまでってやつ?いや。この世の果てまで探しそう)


 笙斗は想像してはげんなりした。

 自分に自由はないのだ。

 だったら、あいつをおちょくって竜生を面白おかしく生きていく方がいいのか。


(でも。和音。俺より先に死ぬしなー)


 毒の攻撃を受けて、今まで一度も想像したことがなかった死を、ほんのちょっと間近に感じて。笙斗は少しだけ考えたのだ。

 もうちょっと。ほんのちょっとだけ。


(子ども孝行ってやつをしてみる、かなー)











(2023.12.11)



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