第8話 いや




(ふん。ばっかでい)


 笙斗は図書館の窓越しに和音を冷めた目で一瞥しては、すぐにその場を離れた。

 連日、竜に関する書物を読みまくっているらしい。


(本なんか読んだって。俺のことがわかるもんかい)


 じゃあ、自分から自分のことを話せばいいだけの話だが、それもいやだった。

 笙斗は和音がいやだった。

 ただ、和音に限ったことではない。

 竜の育て人も、竜も、いやだった。

 竜にとうもろこし石しか食べさせない竜の育て人も。

 竜の育て人の言う通り、とうもろこし石しか食べない竜も。

 そんな環境を作り出しているこの世の全部が、いやだった。

 だから、嫌がらせだったのだ。

 貴重で高価な竹を食べまくっているのは。

 お金をいっぱい使わせて困らせてやりたかった。

 そして狙い通り、和音は困った。めちゃくちゃ困っていた。

 のに。


(けっけっけっ!なーにが、魔法使いに頼んで、無限に竹を生えさせてもらうか、竹がいっぱい生えていた過去に連れて行ってもらってそこで暮らそう、だ!借金で首が回らなくなる………いや。過去に行ったら借金を返さなくて済む。あいつ。真面目そうな顔をして、借金を踏み倒すつもりなのか。最悪だな!)


 ぷんぷんぷんぷん。

 借金の原因のくせに、笙斗は腹を立てて、腹いせにまた竹を食べてやろうと、とてもとても悪い顔をしたのであった。











(2023.12.9)



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