接客は愉快で繊細なゲーム
神永 遙麦
第1話
接客はまるでゲーム。
お客様のご要望を伺って、それに相応しいものを勧めて、販売する。
それが私に割り当てられた仕事。
責任重大だ。だって私の対応次第ではお客様に悪印象を与えるかもしれない。
だからこそ、スリル満点。
声のトーンは不快感を与えない程度に高く、滑舌は滑らかにハッキリと。表情は不自然にならないよう、だけどマスク越しでも見えるよう大きな笑顔。手先は乱暴な印象を与えないよう静かに動かす。
お客様の表情をきめ細かく確認する、嫌でもハッキリ言えない人もいれば言うタイミングを見失う人もいらっしゃる。そういう表情を見逃すとお会計の時、お客様は薄らと不満げな表情を滲ませていることが多い。
こう言う時、私の性格は役に立つ。
小さい頃から人の顔色を窺ってばかりで、人が機嫌悪く見えると私は怖さと「自分が何かをしたのでは」という思いに囚われて、機嫌取りに躍起になった。そんな私は成長するにつれ、人の表情や声のトーンだけで人の感情を察することが出来るようになった。
でも人の感情ばかり窺っているのに、私だけはは表情に出さずに一喜一憂する生活に疲れた。だから自殺する前に一人暮らしをすることにした。
一度、ネットでテストしてみたところHSPと診断された。かなり指数が高かった。ちゃんと病院に行って診断してもらった方がいいのは知ってる。だけど仮初の結果だけでいい。「障がい者」の枠組みに入るのは怖いから、仮初だけでも安心感を得られるから。
短大を卒業後、私は契約で百貨店の販売員になった。唯一、内定をいただいた会社で、こんなにも私のコンプレックスを活かせるなんて思わなかった。
接客は愉快極まるゲーム。
私が担当したお客様がリピーターになったら、ゲームは成功。
接客は愉快で繊細なゲーム 神永 遙麦 @hosanna_7
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