第26話 【その巨人】

 上杉、正しくは辰星上杉家。

 その家は、外様大大名五閥の盟主と見なされていた。

 

 同じ日系で比肩しうる重工業の伊達、

 技術面で比肩するデッドーリ、

 香港以来の華人ネットワークを引き継いでリッチな李、

 ジェンキンスが倒れた後のアメリカの残滓を吸収したペリエ、


 と他四閥も確固たる地位を確保し存在していたにも関わらずだ。

 

 これは何故か? 血筋と権威面では上杉が完全に勝っていたからである。


 この上杉家、平安の世まで遡れる家系図を持っていた。

 なにせ陛下の家に、地球時代でも嫁を出せたのは彼らだけ。


 そう、純系日本人の血と家格を上杉のみが保ち続けていた。


 なお上杉と比肩される伊達だが、その辺は弱かった。

 当時から伊達の姓こそ名乗っていたが、家系図は曖昧らしい。

 なので時の陛下に、


「ホンモノだよー」


 とちょちょいのちょいして持った前科がある。

 よって、日系としての権威を幕府開闢時から保有していたのは上杉のみ。


 残る李、ペリエ、デッドーリは非日系。


 という事で、そも皇室と距離が遠かったのもあるだろう。 

 こうして五閥の中でも、由緒正しい背景を持っていた上杉は躍進した。


 開祖が宇宙開発企業代表研究者、兼大学教授であったのも良かったのだろう。

 

 五閥どころか幕府、いいや日系の中で頂点であるとデカい顔して当然だった。

 なんなら地球圏に残った他の王家よりも上杉は王家らしかった。


 ある意味驕っても不思議ではない家であろう。

 しかし上杉は何時も何時も抜け目なかった。


 伊達の引きこもりに同意したのも、先んじて水星開発を行うため。

 李、ペリエ、デッドーリをジェンキンスの乱で庇ったのも資金、技術面から。


 上手く幕政を泳ぐことで、かの家は権力を保持した。


 確かに木星のヘリウムや、開発中で資源が手付かずの火星に魅力はある。 

 だが水星の太陽光と言う莫大なエネルギー供給元があるのなら、話は別だ。

 上杉が無理する必要は何処にもなかった。


 当初は旧自衛隊と重工業・自動車系の資本の流れを組む伊達が優勢であった。

 そんな伊達の栄達を阻んだのも、上杉である。


 最初期こそ武力こそ劣ったが、上杉は技術面で他勢力を猛追。

 超猫を幕府に遅れる形ではあるものの、完成させた(これは快挙であった)。

 更に水星を覆う超巨大太陽光発電施設【貴婦人の番傘】。

 コレを幕府のバックアップ抜きで建造してのけたのである。


 そのために、犠牲はあったが。


 【つくば】と【あかもん】の理系女子学生を軒並みしゃぶしゃぶ漬けしたり。

 優秀な科学者を拉致監禁洗脳搾取したり。


 黒いことをやるように、その大身のせいか……上杉はオラオラ系であった。


 ただ水星土竜と他勢力に蔑まれても、上杉が巨人であることに変わりない。

 事実、退位なさった先帝陛下らが隠居先を選ぶ時、水星が多かった。

 改米沢の辰星大内裏など事実上の上皇陛下の御座所である。

 

 何なら皇后も何度か出している。降嫁も同様である。


 だだ他の譜代や旗本、なんなら同じ外様からしても、上杉は嫌われた。


 無理もない、何時まで経っても上杉は警戒する相手であった。

 なにせ上杉は傲慢で独尊で日本伝統ジャパニーズ・トラディショナル・DQNなのだから。


 歴史的経緯から大大名として伊達とは因縁の中。

 伊達よりも、死語だが外人嫌い体質。


 混血の進んだ譜代や旗本からすれば油断ならぬ大勢力なのである。

 

 ちなみに初代辰星伊達はコテコテの関西人だった。

 なので、関東出身の学者肌でシティーボーイでイキリの初代辰星上杉。

 そんなキザヤローが大嫌いだった。

 なんなら水星上で今もドンパチやってる(現在進行形のプロレスである)。


 しかし、それでも上杉は外様の盟主と見なされた。


 繰り返すが、幕府内で明確に御三家よりも家格が高いのである。

 その気になれば将軍拝命さえ出来るのが、上杉なのだ。


 よって、上杉は将軍家にだって容赦がない。


 ある時、異性愛者であった御三家の出の色ボケバカが失言した。

 明らかに陛下を軽んじる発言をしてしまったのである。

 それを知るや否や、尊王の色が濃い上杉は即座に刺客を送りこんだ。


―――失言したバカの閨に、幅広い年代の凄腕の陰間の匠を送り込んだのだ。


 美少年から年増まで、めくるめく甘美な鶏姦によりバカはバイセクシャル化。

 将軍家の屋台骨に、継嗣の不安をぶっこんだのである。

 

 それが、上杉であった。

 

 陛下にゃ頭を下げても対幕府、対将軍家には協力者のスタンス崩さない。

 同じ日系巨頭の片割れである伊達と協力すれば、幕府転覆も夢じゃない。

 ほぼ確実に幕府を傾けられると警戒されるのが上杉であった。 


 ただ伊達が上杉に協力することは絶対に無いだろう。

 伊達は、つゆが薄くてポークカレー食ってるからダメとコケ降ろすのだし。

 何より伊達側には上杉に対して3世紀近い色々な恨みがある。


………せっせとパラ・テラフォーミングをしてたら【貴婦人の番傘】を先んじて作られる。


 関西出身の人材には手を出さない締約を結んでいた筈が、裏切られる。

 そして【きょうだい】の女子学生を軒並み拉致され(いつもの上杉)た。

 代わりに千駄ヶ谷の不良自衛官どもを押し付けられる。


 これらだけなら、まだ伊達も我慢が効いただろう。

 だが、ここででも上杉はDQNらしく、やらかした。

 

 ジェンキンスの乱の際だ。

 幕府を通さない和睦を伊達首脳部は画策していた。

 以後の自勢力の存在感の向上を試みたからである。

 

 それを思いっきり邪魔された。


 更に更に、婚姻政策で伊達と御三家とので縁組を決めた時である。

 前出の色ボケバカの正妻として、伊達は器量よしの娘を送り出した。

 しかし肝心のバカボンは上杉のエロリストのせいでアレしてた。

 ゲイ寄りのバイセクシャル化していたからむべなるかな。

 当然、HENTAIの方向性の違いで結婚生活は破綻。 


…………伊達がキレないはずがない。


 宇宙標準日本語も上杉と将軍家に負け(土竜の汚名は上杉に移ったが)、

 重工業で勝っても、エネルギーインフラを関東人に握られた。

 トドメが日系の盟主じゃない方と300年言われ続けたのだ。


 そりゃ恨み骨髄ともなる。


 そもそも、伊達男なんて言葉が残るのに質実剛健な伊達領。

 対して、いちいちド派手な上杉が合うはずがなかった。

 

…………で、そんな上杉が、波瑠止の屋敷にやってきた。


 空中に100隻を超える大艦隊を従えて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る