世界最強の傭兵なんぞ俺にとっちゃザコ

「ご、ご主人様ってどういうことだよ……」


 ミューラ・カーフェスを助けた後、俺は困惑しっぱなしだった。


 なんだか俺におっぱいを見つめられているのを嬉しそうにしているし。

 挙句の果てには“ご主人様”呼ばわりしてくるし。


 ゲームではすぐに死んだモブキャラだったので、その内面については深く掘り下げられていなかったが――。

 もしかすればこのミューラも、なんかやばい人物なのかもしれない。


「頑張ってください、ご主人様! 応援しています!」


「はぁ……」


 そう言って背後で応援してくるものだから、もはや始末に負えなかった。


 まあいい。

 あのおっぱいが魅力的なのは変わりないしな。


 そう判断し、俺は再度ザレックスに視線を向けたのだが――。


「おい」

 いつの間にか戦闘の構えを解いたザレックスが、不思議そうな表情で俺を見つめていた。

「なぜその女を助けた。そいつはおまえらが侵略しようとしている国……バージニアの大統領秘書だぞ」


「……はっ、勘違いすんなよ馬鹿野郎」


「なんだと?」


「侵略しようとしているのはユリシアだ。俺じゃねえ」


「…………」


 まあ、あくまで“今は”だけどな。

 エルフ王国がもう少し強化された暁には、その領土を広げていきたいと考えている。


「それに見てみろよあの胸。男の夢がすべて詰まっていると思わないか?」


「胸……?」


「ああ。おまえも男だ……わかるだろ?」


「ククク……まさかとは思うが、あんた、あの胸のために命を賭けたのかよ」


「当たり前だろ」


 負けられない戦いがそこにある、ただそれだけのことだ。


「ふっ、面白い男だなあんた。時と場所が違えば、うまい酒が飲めたかもしれん」


 だが! と突如ザレックスは大声を発するや、再び剣の切っ先をこちらに向けた。


「――だとしても、俺はコーネリアス大統領の蛮行を止めないわけにはいかない。今もなお邪魔立てするのなら、こちらとて容赦はせんぞ‼」


「はっ、そりゃ俺だって同じことさ。いまここで死者を出すわけにはいかねえんだよ!」


 そうして俺とザレックスは再び剣を交えた。


 ゲーム中でも強キャラ扱いされていただけあって、やはり強いな。


 まずすべての攻撃が早い。

 瞬きを終えた時にはもう目前に迫っているし、かといって反撃されないように絶妙な距離を保って攻撃を繰り出してくる。


 しかもこいつ、魔法もお手のものだもんな。

 距離ができていれば安心というわけではなく、遠慮のない炎魔法が間断なく飛んでくる。


 前世でも「ザレックスにトラウマを植えつけられた」という人間がちらほらいたが、それも納得の強さだった。


 だが――それはあくまで並のプレイヤースキルだった場合の話。


 三百周とゲームをクリアしてきた俺には、あいつの攻撃パターンが手に取るようにわかる。


「くっ……どうして攻撃が当たらない!」


 だから今、ザレックスは焦りを露わにしていた。

 神速のごとき勢いで大剣を振り下ろしているにも関わらず、俺がそれを軽いサイドステップだけで避けているからだ。


「がら空き」

「くおっ…………!」


 俺が指二本で胸部を突くと、ザレックスはそれだけで後方に吹き飛んでいく。


「馬鹿な……馬鹿なぁああああ‼」


 なおも諦めることなく、突進をしてくるザレックス。


 これもまた相当な速度ゆえに、遅れて周囲に激しい突風が舞った。


「うおおおっ!」

「わあああああああああっ!」


 戦いを見守っていた冒険者たちが、その突風の勢いに身を屈ませる。


「なんて戦いだ……! 達人同士の戦いそのものだ‼」


 だがその冒険者たちの声さえ、俺の意識には入ってこなかった。


 ゲームが始まると、目の前の戦いに全神経を注ぐ――。

 そうでもしなければ簡単に殺されてしまうのが、このゲームだったからな。


「ふう……仕方ねえ。こうなったら力の差を見せてやるか」


 レベル100に達したことで使えるようなった、新たな技。


 作中のキャラクターではたしか誰も使えないので、ザレックスに一泡吹かせることも可能だろう。


 こいつはなかなかしぶとい奴で、HPもかなり高かったはず。

 猪口才な攻撃を繰り返すだけでは、いつまでも決着はつかないからな。


「くたばれぇぇぇえええええ!」


 そのまま勢いよく振り下ろしたザレックスの剣を、俺はやはり必要最小限の動きで避ける。


 いかに達人といえど、大技を放ったあとに隙が生じるのは必然。


 ザレックスも今、剣を空ぶったことで少し前につんのめっていた。


 ――今だ!

 俺は魔剣レヴァンデストにありったけの魔力を込めるや、がら空きになったザレックスの胴体に斬撃を敢行。


 そのまま勢いに任せ、奴から少し離れた距離で着地すると――。


 瞬間、耳をつんざく爆発音が一帯に響き渡った。


 この王城そのものを激しく揺らすほどの大衝撃。

 斬った相手を起点にして大爆発を発生させるという、えげつないほど超高火力の大技――新星爆発剣しんせいばくはつけん


 本来であれば、攻撃力が二万に達していないと行えない剣技だ。

 だからゲーム主人公の場合だと、たしかレベル300以上でようやく扱うことができたはず。


 だが今の俺は……エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド。


 その並外れたステータスと魔剣レヴァンデストの《攻撃力+一万》という破格性能が組み合わされば、この大技さえ使用することが可能だった。


「ば、馬鹿な……!」


 さすがに堪らなかったか、ザレックスがようやく地面に伏した。


「やった♪」


 俺の背後では、ミューラがその大きなおっぱいをぶるんぶるん上下させながら飛び跳ねていた。

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