私は絶対エスメラルダ様におっぱいを触られたい

 私はミューラ・カーフェス。

 コーネリアス大統領の新米秘書官を務めている女だ。


 今日は三大国代表会議に参加するため、ヴェフェルド王国の地に降り立った。

 バージニア帝国の未来を左右する重要な会議なので、気を引き締めていこうと考えていたのだが――。


 その会議場にて、なんとテロリストが姿を現した。


 しかも彼らは、帝国で悪名高い《帝国神聖党》……。


 当然、連中は真っ先にコーネリアス大統領を狙ってきた。その傍に控えていた私もまた、大統領への攻撃に巻き込まれるはずだった。


 魔導銃の口をこちらに向けられた時、死を覚悟した。


 けれど。



 ――――危ない! 逃げろ!



 ふいにそんな声が響き渡って、ある方が私を守ってくれた。


 ヴェフェルド王国の第五王子、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド様。


 ――――惚れないわけがなかった。


 あのたくましい身体つきに、ちょっと悪そうな表情。それでいて心根はとても優しく、身を呈してまで私を守ってくれた。


 極めつけは「一目見た時から、君が気になっていた」という発言だ。


 ここまでされて、惚れない女がいるわけがなかった。


 さりげなく私の胸に視線がいっている気がしたが、それでも全然かまわなかった。

 むしろ彼の手で触れてほしいとさえ考えるようになっていた。それどころか、もっと先のことも……。


 しかし、ここは危険地帯。

 そんなことを考えている場合ではない。


 私はエスメラルダに言われるがまま、クローフェ女王に従って会場から避難した。


 おかげで安全な場所へと身を移すことができたものの……果たしてこれでいいのかと思い始めた。


 だって、彼は今でも私たちのために戦ってくれている。


 本当はバージニア帝国の問題であるはずなのに、自分が犠牲になってくれている。


 それを放っておくことなど、どうしてできるだろうか。


「……その気持ち、とてもとてもとてもとてもとてもわかります」


 自身の思いを吐露したところ、クローフェ女王がそう共感を示してくれた。そして遠巻きなら彼を見守っていてもいいとの許可をもらった。


 だから私は現在、彼の戦いを遠くで見つめているのだが――。




 やばい。

 やばすぎる。


 バージニア帝国でもまったく手をつけられなかったザレックス・ゴートンと、エスメラルダ様はなんと互角以上の戦いを繰り広げているのだ。


 エスメラルダ様が剣を振るうだけで衝撃波が発生し。

 エスメラルダ様が気合いを入れるだけで地震が発生し。


 正直なところ、戦車同士の戦いよりも激しい光景が、目の前に広がっていた。


 彼は巷で「無能王子」「怠惰者」などと言われているが、そんなことは全然ない。むしろかっこよくて優しい、本物の男なんじゃないか……。


 そう思うようになっていた。


 もっと傍で、彼を見たい。

 もっと彼の近くに行きたい。


 そんな気持ちが昂るあまり、さすがに出過ぎた行動をしてしまったかもしれない。

 もっと近くで彼が見たくなって、じりじりと戦場へと近づいて行ってしまったのだ。


 ――それが仇になった。


 ズドォォォォォォオオン! と。


 ザレックスの放った剣撃によって、こちらへと衝撃波が放出され。

 私の真上にある、シャンデリアを吊るしている金具が破壊されてしまったのだ。


「あ…………」


 あと数秒もすれば、シャンデリアが私の身体を押しつぶすだろう。


 それでも――私は動けなかった。

 完全に腰が引けてしまって、次の行動がとれなかった。


 情けない話だ。

 人生で初めて好きな人ができて、気分が舞い上がってしまったのかもしれない。


 私の人生は、ここまでか……!


 そう思ってぎゅっと目を閉じた時――。


 ふわり。


 再び優しい感触が私を包み込んで、思わず目を見開いてしまった。


 そう。

 あのエスメラルダ様が、また私を抱きかかえていたのだ。


 もちろんシャンデリアとは離れた位置に着地なさったので、私にもエスメラルダ様にも傷はない。


「おい、無事か……⁉」


 慌てたようにそう聞いてくるエスメラルダ様。

 まさか私の身を案じてくださっているのだろうか。


「は、はい……。なんとか無事です……」


 胸の高鳴りがやばすぎて、そっちのほうは無事ではなかったけど。


 そう答えた私に、エスメラルダ様はほっと安堵したご様子だった。


「よかった……。君だけは絶対に死なせたくなかったんだ」


「え……」


「言っただろう。俺は君のことがずっと気になっていたんだ」


「…………」


 やばい。やばいやばいやばいやばい。


 かっこいい。

 かっこよすぎる。


 やっぱり私の胸に視線がいっているが、むしろそれが嬉しかった。そのたくましい手で、私のおっぱいを触ってほしかった。


 けれどやはり、今はそれが許される状況ではない。

 そのことが、私の胸をぎゅうと締め付けるのだった。


「――大好きです、エスメラルダ様」


「へ? ……そ、そうか。それはなによりだ」


 頭がぐちゃぐちゃになって急に告白してしまったが、これも初めてのことだった。

 今まで男性を好きになったことはなかったのに、彼だけは違った。


「とにかく、ここは危険だ。ここにいれば俺が守れるから、ひとまずここで待っててくれないか」


「はい、もちろんです! ご主人様・・・・……!」


 いつしか私は、彼の従順なる下僕になっていた。

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