悪役王子の悪評が覆っていく瞬間

 さすがは国際社会から《大国》と呼ばれているだけあって、ヴェフェルド王国はかなり賑わっているな。


 すれ違う人々もめちゃめちゃ多いし、見渡す限りに商店や飲食店が並んでいる。


 のどかで自然溢れるエルフ王国も心地良かったが、活気に満ちたヴェフェルド王国も悪くはないな。ユリシアに目をつけられている以上、安易な行動はできないが。


「やっぱり、あのお方は第五王子の……」

「どうしてエルフ王国の王女様を……?」


 そして王城へ向かう道すがら、俺は通行人たちの視線をいっぱいに浴びていた。


 まあ当然だよな。


 この世界において、俺ことエスメラルダは「無能者」「怠惰者」として悪評が広まりすぎている。


 おそらくはユリシアを始めとする王族たちが、俺を王権争いから蹴落とすために噂を流したんだろうけどな。


 その俺が、よもやエルフ王国の女王を従えて城下町を闊歩かっぽしているのだ。


 これに驚かない理由がない。


「クックック……」


 呆気に取られている国民を見て、俺も笑いが止まらない。


 これでまた、俺に対する国民の評価も変わるだろう。民の支持を得たいユリシアたちにとっては、この上ない打撃になるはずだ。


 悪役王子は悪役王子らしく、三大国代表会談でも好き勝手に振る舞わないとな。


「エスメラルダ様、靴にほこりがついておりますよ」


「ん……?」


 しばらく城下町を進んでいると、隣を歩くクローフェ女王がそう言ってきた。


「少しお立ち止まりください。私のほうで拭かせていただきますから。エスメラルダ様に付着する埃など、絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対に放っておけません」


「ん? あ、ああ……」


 まあたしかに、今から俺たちは各国の代表に会いに行くわけだからな。


 身だしなみを整えておくことに越したことはないが、しかしここで女王が俺の靴を拭く構図はさすがにちょっと……。


 しかしクローフェ女王は、こちらが止める前もなく、すっと俺の足下にしゃがみ込む。


「おおっ……!」


 と民衆たちが驚きの声を発しているのさえも気づかずに。


「はい、綺麗に磨かせていただきました。これでエスメラルダ様の覇道を阻む者は、もはや何人たりともいないでしょう」


「あ、ああ……」


 ク、クックック……。

 さすがにここまでは想定していなかったが、まあ、これはこれで国民たちに良いアピールになっただろう。


 俺ことエスメラルダ第五王子が、エルフ王国を統治したというな。


★  ★  ★


 ――さて。


 ヴェフェルド王国が賑わっている理由の一つに、本日の三大国代表会談が挙げられるだろう。


 各国の代表たちが集まるわけだから、三国以外のマスコミも駆けつけているし、外国からの来訪者もちらほら見受けられる。


 そしてもちろん、そんな代表たちを決して傷つけぬよう、ヴェフェルド王国の軍も厳戒態勢を敷いているな。


 特に会議の場となる王城まわりについては、王国軍があちこちに厳しい目を向けている。


 いつもは一般人も門の近辺までは足を運べるが、今はそれさえも許していない状態だった。


 そんながらんどうになった王城門付近へと、俺とクローフェ女王は堂々と歩みを進めた。


「第五王子のエスメラルダだ。ユリシア姉様に呼ばれてきた。そこを開けろ」


 言いながら、俺は一枚の書面を門番たちに掲示する。

 五日前、ユリシアから届けられた会談への招待状だな。


「か、かしこまりました」


門番の兵士二名がピンと背筋を伸ばし、今度はクローフェ女王に目を向ける。


「し、しかし、そちらの方は……」


「見てわからないか。エルフ王国の女王、クローフェ・ルナ・アウストリアだ。今回の同行者だよ」


 俺がそう言うと、背後にいるクローフェ女王が小さく頭を下げる。


 だがここまで教えてやってもなお、兵士たちは困惑の表情を浮かべたままだ。


 今日は三大国・・・代表会談――。

 関係のない国のトップを、そう簡単に通していいものかと思案しているのだろう。


「さっきから騒がしいですね。いったい何事です?」


 すると次の瞬間、ヴェフェルド王国の第一王女――ユリシア・リィ・ヴェフェルドが姿を現した。

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