目覚めたらおっぱいが押し付けられていた

 その日の夜。

 俺はクローフェ女王に勧められ、王城の客室にて眠りについていた。


 女王より上の立場になるわけだから、本来はもっと上等な部屋を案内すべきだと言っていたけどな。


 たださすがに、急には《女王以上の部屋》を用意できるはずもなく――。


 極上の「飯」と「風呂」と「サービス」を提供する代わりに、ひとまずは客室に泊まってほしいと靴を舐められた。


 悪役王子たる者、もちろんこれを了承してはいけないけどな。エルフたちを奴隷のように働かせ、すぐにでも俺専用の部屋を作らせる……。

 それこそが悪役王子っぽい振る舞いだ。


 だがいきなり暴君っぷりを発揮してしまっては、人民もついてきてくれない。


 最初は忠誠心を誓わせる意味でも、ここは人柄の良さをアピールするほうが先決だろう。


 その意味で、俺は極上の「飯」と「風呂」と「サービス」とやらを断っておいた。


 それを聞いたミルアやローフェミアはまた目を輝かせていたが、二人はまだ気づいていないようだな。

 悪役王子エスメラルダが胸に秘めている、本当に恐ろしい陰謀を。


 とはいえ、まあ……今日は本当に疲れた。

 ひとまずはふかふかのベッドに潜り込んで、一日の疲れを癒そうと思っていたのだが――。


 モゾモゾ、モゾモゾ。


「ん……?」


 ふいに毛布のなかに誰かがいる気がして、俺は目を覚ました。


「なんだ…………?」


 寝ぼけ眼のまま毛布をめくったら、そこにローフェミアがいた。


 しかも寝巻を羽織っているためか、胸の露出がめちゃくちゃすごいことになっている。


 やっぱりローフェミアのおっぱいは、すごくDE☆KA☆I!


 ……って、いかんいかん。

 せっかく高潔な王子を演出しようと思ったのに、これでは台無しも良いところではないか。


「なにをしているんだ、ローフェミア」


「ふふ、お母様が言ってたサービス・・・・ですよ」


 うおっ……!


 肌の大部分を露出させたまま馬乗りになってきて、とんでもなく柔らかい感触が寝巻越しにでも伝わってくる。


「エスメラルダ様はいらないって言ってましたけど、やっぱり戦いの疲れを癒やすにはこれが一番かなって……♡」


「な、なんだって……?」


 うん、それはとてもよくわかる。

 やっぱりおっぱいは世界を救うって、俺も大真面目にそう思ってる。


 だから本音を言えば、今すぐにでも俺の聖剣エクスカリバーを立たせたかったが……。


 しかしそれでは、俺の悪役美学に反する。

 どんな窮地に陥っても目標を諦めることなく、泰然自若と振る舞う……。


 クッ、言葉にするのは簡単でも、実践するのがこんなに難しかったとは……!


「フフ……ローフェミアよ」


 だが俺はなんとか理性を振り絞り、ローフェミアの肩を優しく押しのける。


「おまえの気づかいは嬉しいが、おまえとのこれ・・はこんなに簡単に済ませたくない。――そんな安易な関係じゃないだろ? 俺たちは」


「エ、エスメラルダ様……」


 俺が適当に言い放った言い訳に対し、ローフェミアがぼうっと顔を赤くする。


「俺たちが真に結ばれるべき時は、ユリシアを倒し、エルフ王国に本当の平和を取り戻してからだ。そうじゃないか?」


「は、はい……! おっしゃる通りです……!」


「わかったら離れてくれ。俺たちのためにもな」


「はい!」


 目をハートの形に変えつつ、ゆっくりと俺の傍から離れるローフェミア。


「私、覚えました! ユリシアを倒せば、エスメラルダ様と大人の階段を昇れるってことですね! 言いましたね!」


「は? あ、ああ……」


 なんだ?

 なんで今更ここを強調するんだ。


「……少し残念ですけど、でもエスメラルダ様のおっしゃる通りです。私、頑張りますから……‼」


 そう言ってぺこりと頭を下げると、ローフェミアは肌の露出部分を隠し、客室を出て行った。


 ……ああ、本当はあのおっぱいめちゃくちゃ触りたかったけどな。


 真の悪役への道はこんなにも厳しいものかと、俺は改めて思い知るのだった。

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