悪役王子、国を手に入れる

「ほう……?」


 世界樹の雫の光が全身を包み込んだ後、俺は思わず目を見開いた。


 さすがはチート級アイテム。

 さっきまで全身に焼けるような痛みが走っていたというのに、もうそれがまったく感じられない。


 たしか前世のゲームでも、年に一度のイベントで採取できるかどうかといったくらいのレアアイテムなんだよな。


 そんなものを惜しげもなく使ってくれるとは……クックック、やっぱりクローフェ女王も俺にかなり心酔してくれているようだ。


 おかげで俺の王国建設も着々と近づいてきていると言えるだろう。


「ど、どうですか……? 傷のほどは……」


 不安そうに聞いてくるクローフェ女王に対し、俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべて答える。


「……ああ、問題ない。全回復したぞ」


「や、やった……‼」


 クローフェ女王だけじゃない。


 俺の回答に、剣帝ミルア、ローフェミア、そして他のエルフまでもが大きく喜んでいる。

 なかには互いに抱きしめ合ったり、ハイタッチしているエルフまで出てくる始末だ。


「よかった、よかった……!」

「エスメラルダ様が無事なら、それだけでもう何もいらない……!」

「エスメラルダ様ぁ……!」


 クククク、やはりエルフたちはとんでもなく俺に酔い始めているな。


 ブラッドデスドラゴンの火炎放射を喰らって生き残れるのかは賭けに近い部分はあったが、まあ、結果的に功を奏したようで何よりだ。


 真の悪役たる者、こういう時の決断はすぱっとできないと駄目だしな。


「……さて」


 そうして皆がひとしきり喜び終わった後、クローフェ女王がエルフを見渡しながら言った。


「申し訳ないですが、ローフェミアとミルア殿以外の者は、いったん席を外していただけませんか? エスメラルダ様に大事な話があるのです」


 ……おっと、どうしたんだ改まって。


 もしかして俺の真の狙いがバレたのだろうか。

 身体を張ってエルフの子どもを助けたのは、エルフたちの心を掌握するためだったということが。


 エルフたちは女王の言葉にぺこりと頷くと、そろぞろと病室を後にしていく。


 もちろんミルアとローフェミアの二人を除いて――だ。


「……大変失礼しました、エスメラルダ様。《世界樹の雫》で傷が全治したとはいえ、まさか敬愛するエスメラルダ様を王城にお呼びするなどと、不敬にも程があると思いまして。……それはもはや、極刑にさえ値するクソクソクソクソクソ行動だと思ったのです」


「…………」


 訂正、俺の陰謀はまるでバレていなかった。

 ヒヤヒヤさせてくれる女王だな、まったく。


「それで……いったいどんなお話ですか? ただ事ではないご用かと思われますが……」


「ええ、おっしゃる通りです」


 クローフェ女王はこほんと咳払いをすると、真剣極まる表情で俺を見据えた。




「――話というのは他でもありません。エスメラルダ様に、エルフ王国の統治をお願いしたいのです」




「…………は?」


「もちろん、細かな国政などは引き続き私が担います。ですが国家の根幹を揺らがすほどの大きな決断は、エスメラルダ様ご自身に判断を仰がせていただきたく……。文字通りの“統治”をエスメラルダ様に行っていただきたいのです」


「…………」


 おいおいおい。

 こりゃびっくりだな。

 俺から提案しなくとも、まさかエルフ王国がごっそり俺のものになるとは。


「……私は感じたのです。エスメラルダ様は頭がキレるだけではない。時には命を賭してでも人民を守ることのできる、正義感溢れたお方であると。私がとうに忘れかけていたものを、強く持ち続けているお方であると」


「ええ、ええ。まさしくその通り……!」


 共感する部分があったのか、ミルアがそれはもう深く頷いている。


「もちろん統治をお願いする以上は、エスメラルダ様は私以上の権限を有することになります。……いかがでしょうか」


「女王以上の、権限……」


 思い出した。


 エルフ王国に足を踏み入れた時、ここにはおっぱいの大きいエルフたちが沢山いたのを覚えている。


 しかもみんな可愛いんだよな、これが。


「……本当に好きにしていいんだな?」


「はい! エスメラルダ様ならばきっと、エルフ王国を良き方向に導いてくださると思いますので!」


 クックック、この女王、何もわかっていないな。


 俺は悪の帝王、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド様だ。


 ここまでエルフたちに好かれているのも、俺の陰謀によるものでしかない。


 にも関わらず俺に一国を譲ってしまうとは……。


「もう一度聞くぞ。本当にいいんだな?」


「はい、もちろんです! エスメラルダ様ならもう絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対に大丈夫ですから!」


「クク……いいだろう。そこまで言うのなら、引き受けようではないか」


「ありがとうございます!!!」


 そう言って、なんと俺に深く土下座をしてくるクローフェ女王。


 本来ならこれもおかしい光景だが――俺はもう、この女王より上の立場に立つんだもんな。


 ……クックック、面白い。


 前世ではゴミクズみたいな人生を送ってきた分、今生では好き勝手に生きさせてもらうぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る