悪役王子、エルフ全員に尊敬されまくる
前世では本当にクソみたいな人生を送ってきた。
家が貧乏だったゆえに、高校卒業後には地元のブラック企業に就職して。
それでもせめて弟には大学に通ってほしかったから、低賃金ながらもいっぱい貯金して。
やっと弟が大学を卒業できたと思ったら、クソ上司のご機嫌取りのために残業しまくって、その疲労がたたって交通事故に遭って……。
――他人のために生きて、他人のために死ぬ。
そんな人生なんぞ、クソ喰らえだと思った。
俺は誰かのために生きているんじゃない。
俺の人生は、俺のものだ。
だから悪役に徹してでも、来世では自分の好きなことを追及していこうと思った。
……笑い話だな。
気を失っていた時に脳裏に駆け巡っていたのは、あえて記憶の奥底に封じ込めていた、しょうもない前世のことだった。
★ ★ ★
「――ルダ様、エスメラルダ様……‼」
名前を呼ばれて目を覚ました。
俺は今、ベッドに横たわっているようだ。
あたりを見渡せば、剣帝ミルアやローフェミア第一王女、クローフェ女王、ブラッドデスドラゴンから守ってみせた子ども、そして他にも大勢のエルフたちが俺の顔を覗き込んでいた。
それはまるで、ここにいる全員が、俺のことを心配しているかのような。
文字通り、俺がエルフたちの主役になっているかのような――。
そんなふうに思わせるには充分な光景だった。
「エスメラルダ王子殿下ぁああああ!」
「エスメラルダ様あぁぁぁぁぁぁあ!」
俺が目覚めたことで限界に達したのか、ミルアとローフェミアが思い切り泣き始めた。
ベッドの端に顔を埋めているのは、俺の怪我に障ったらいけないことを察しているためか。
彼女たちだけではない。
他のエルフたちも同様、涙を浮かべては俺の名前を呟いていた。
エルフ王国なんて、俺の王国を築くための土台にするつもりだったのにな。
でもなぜか、みんな本気で、俺の目覚めを嬉しがっているようでもあった。
「…………」
そうか。
ブラッドデスドラゴンの炎を喰らって、俺は生きていたんだな。
いくらエスメラルダの身体でも、レベル50程度じゃ絶対に生き残れないと思っていたんだが……。
――――――
エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド レベル100
物理攻撃力:10578
物理防御力:9780
魔法攻撃力:11032
魔法防御力:9971
俊敏性 :10451
――――――
ふとステータスを確認すると、ブラッドデスドラゴンを二体も倒したおかげか、全体的な数値がめちゃくちゃ高まっていた。
……やはりそうだった。
レベル50ではさすがにブラッドデスドラゴンの火炎放射に耐えられないが、一体目を倒した後なら、レベルアップで耐久力が上がっている。
だからたぶん耐えられると思ったが……やはりビンゴだったようだな。
もちろん無害ってことはなくて、身体のあちこちがめちゃくちゃ痛いけど。
ククク……身体を張ることにはなったが、しかし思った通り、エルフたちはめちゃめちゃ俺に恩を感じてるな。
「ありがとうございます、エスメラルダ様。エルフを代表して、お礼を言わせてください」
しんみりした空気のなか、クローフェ女王がそう話を切り出してきた。
「エスメラルダ様がいらっしゃらなければ、ここエルフ王国は、文字通り火の海に包まれていたことでしょう。エルフにも優秀な戦闘員はいますが、さすがに二体同時となると、甚大な被害が生じていたことは想像に難くありません」
「…………」
「であればこそ、こちらをエスメラルダ様に使いたいと思います」
そう言ってクローフェ女王が掲げてきたのは、なんと《世界樹の雫》。
ゲーム中でも極レア中のレアアイテムで、パーティ内のHPやMPを全回復するうえ、瀕死を含めた状態異常さえも一瞬で治すレアアイテムだ。
ゲームでよくある、回復系チートアイテムってやつだな。
まさかそんな高価なものを、俺に使おうとするとは……。
「心優しいエスメラルダ様なら遠慮するかもしれませんが、これは私たちからの気持ちです。どうか受け取ってください」
そう言ったのはローフェミア第一王女。
……むしろこれくらいしないと、エルフ王国の面子も潰れてしまうもんな。
俺はこくりと頷くと、クローフェ女王が右手をかざす。
そして次の瞬間、《世界樹の雫》から放たれる光が、俺の全身を丸ごと包み込んだ。
―――――――――
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