悪役王子、災厄をワンパンする
さて。
レベルが50に上がった後は、もう《エフエリア森林地帯》に用はない。
ゴールデンアイアントやシルバースライムを倒すのはたしかに経験値効率が高いんだが、それはあくまで低レベル帯での話。ここまで強くなった後は他に経験値スポットがあるので、レベルアップはここまでに留めておく。
では、他に何をやるのかというと……。
「エ、エスメラルダ様。本当にここに入るんですか?」
「ああ、当然だろう」
怯えた様子のローフェミアに対し、俺は大胆不敵に笑いかけた。
――アウストリア洞窟。
王城から少し離れたところにある怪しげな洞窟で、リポップするモンスターの強さは《エフエリア森林地帯》の比ではない。
生半可な実力では絶対に勝つことができないため、普段は門番によって出入りを禁止されている場所だな。
レベルアップの効率自体は《エルフリア森林地帯》のほうが高いので、この洞窟はあえて後回しにしていたが……。
しかしアウストリア洞窟には、非常に有用な武器が沢山眠っている。
もちろんショップ等での購入も不可能なので、ここらで入手しておきたいところだった。
「クックック、なるほど。噂には聞き及んでいましたが、ここが例の洞窟ですか。腕がなりますね」
ミルアのほうはさすが剣帝というべきか、怖れている様子はどこにもない。
とても頼もしい限りだ。
……誰に似たのか、最近口調が変わってきているような気もするけど。
「で、でも私は怖いですわ。昔から、この洞窟には絶対に入るなって言われてますから……」
「ふふ、気にすることはない。おまえは俺が絶対に守る。怯えることはない」
なにせ大事な
彼女と出会ったおかげでクローフェ女王との繋がりも生まれ、着々と俺の帝国が作られつつあるのだ。
そんな彼女を見殺すなんて、それは悪役ではなくただの馬鹿だ。
「……ほんとにずるいです、エスメラルダ様は」
涙目で腕を絡め、その上でおっぱいを押し付けてくるローフェミア。
クックック、俺に心酔してしまっているようだが、実に結構なことだ。
俺にとってメリットがあるからこそ付け入っているだけなのにな。
まさに俺にとってうまい展開だけが続いている。
「さあ行きましょうお二人とも! あまりくっついているのはよくないですよ!」
と言いつつ、反対側から腕を絡めてくるミルア。
……くっつくなと言ってくるくせに自分は胸を押し付けてくるとは、いったいどういう思考回路なのだろうか。
そのへんはよくわからなかったが、ひとまず俺たちは、有用な武器を求めて洞窟の中に足を踏み入れるのだった。
★ ★ ★
私ことローフェミア・ミュ・アウストリアにとって、ここ最近は驚きの連続だった。
エルフ誘拐の真相を突き止めるために人間界に足を踏み入れて、そうしたら謎の男たちに襲われて。
自分もここまでかと思ったら、今度はかっこいい男の人に助けられて。
しかもその男の人――エスメラルダ様は、エルフ王国に潜んでいた刺客の正体をも見破った。
月並みな表現だが、「すごい人」「尊敬できる人」「大好きな人」という言葉しか思い浮かばないほど、私にとって彼は大きな存在になっていた。
……しかも、この気持ちをなんていうのだろう。
エスメラルダ様のことを考えているだけで、胸がドキドキする。
エスメラルダ様に触れるだけで、なんだか身体がぞわぞわっとする。
だから何度も密着しちゃうんだけど、それでもエスメラルダ様は拒否しないでいてくれる。
それが嬉しかった。
ほんとはエスメラルダ様のほうからくっついてほしいと思うこともあったけれど、さすがにそれはミルアさんが怖かったのでやめておいた。
なにはともあれ、彼はかっこよくて、世界最強。
誰がなにと言おうと、それは揺るぎない事実だと思った。
「ギュアアアアアアアアアアアアアア!」
「うるせえ、くたばっとけ」
アウストリア洞窟。その最深部にて。
クローフェ女王――お母さまからこの洞窟には恐ろしい鬼のモンスターがいて、その鬼のせいで何人ものエルフが犠牲になったと聞いた。
だから私たちがこの鬼に遭遇した瞬間、これはさすがにエスメラルダ様にこのことを伝えたほうがいいかと思った。
「フハハハハハハ、当たらねぇな! その程度なのか貴様は!」
――でもやっぱり、彼は世界最強だった。
鬼の棍棒を涼しげな表情で躱し続けるだけじゃなく、その上で鬼を煽っている。
きっとモンスターのほうもこんな経験はないのか、すごく焦ったような顔を浮かべていた。
そして。
「――クックック、しょせんこの程度か。興ざめだな」
と言ったエスメラルダ様は、たった一発の殴打を、鬼の腹部に見舞う。
「グオッツ……?」
鬼はその一撃を受けただけで、数秒だけその場に棒立ちになった後、その場に崩れ落ちる。
一撃。
たったそれだけで、何百年もの間エルフたちに恐れられていた伝説を倒した。
本当にすごすぎて、私はまたエスメラルダ様に抱き着いてしまった。
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