レベリングを楽しんでいるだけの悪役王子、ストイックだと勘違いされる

――――――


 この方は我がエルフ王国を救ってくださる真の救世主です。


 ゆえに、エスメラルダ様やそのご一行様についても、立ち入り禁止区域に入ることを許可します。


 そしてこれを見ているエルフは、エスメラルダ様の圧倒的風格に気づけず、この許可証の提示を求めたことを猛省なさい。


 この方は絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対この世界に必要な方です。


 まさか不躾な態度を取っていませんよね?


エルフ王国 第五十七代国王

クローフェ・ルナ・アウストリア


――――――




「こ、これは……!」


 クローフェ女王の許可証を見た門番係の表情が、一瞬にして真っ青になっていった。


 ――翌日。

 王城に宿泊した俺たちは、一晩休んだあと、さっそくエルフ王国の秘境地帯に足を運ぼうとしていた。


 その名も……《エルフリア森林地帯》。


 ここには希少なアイテムが沢山転がっているし、経験値稼ぎにちょうどいいモンスターが沢山いるからな。


 ここから自分の帝国を築いていくにあたって、自分自身の戦闘力は高いに越したことはない。ユリシア王女もなにをしてくるかわからないからな。


 だからみずからを鍛え直す意味でも、この《エルフリア森林地帯》に足を運んだのだが……。



 ――すみませんけど、許可証の中身はここでは見ないでくださいね……。ちょっと恥ずかしいので――


 許可証を渡された際、そのように言われたのを覚えている。


 あの時は許可証を恥ずかしがる意味がまったくわからなかったが、なるほど、こんなことが書いてあったのか。


 ……というか、こんなんおかしいだろ。

 まったく公式文書とは思えない文章なんだが。


「し、失礼しました! まさかクローフェ女王からこれほど慕われているお方だとは……!」


 門番のエルフが慌てた様子で頭を下げる。


「お通りください。あなた様のようなお方を私ごときが引き留めてしまい、大変申し訳ございませんでした」


「い、いや……」


 ……まあ、文章自体はおかしいが、署名箇所にはきちんと王家の印鑑が使われているからな。


 この許可書が本物だということには疑いの余地がないので、門番もそうせざるをえないのだろう。


「フフ……まあ、わかればよろしい。気にするな」


 しかしいかに予想外の事態に見舞われたとしても、真の悪役たる者、こんなことで動じるべきではない。


「さあ、いくぞローフェミアにミルア。世界を掌握するのは俺たちだ」


「「はい、エスメラルダ様‼」」


 二人の配下が、大きなおっぱいを揺らしながら俺の声に応じた。



★  ★  ★



「フフフフフ…………」


 結論、俺はめちゃめちゃ強くなった。


 ゴールデンアイアントやシルバースライムなど、取得経験値の高いモンスターがリポップしやすい場所だけを重点的に巡回し。


 逃げ出そうとする前に、奴らに唯一通用する炎魔法――デスファイアロックをもって討伐する。

 逃げ足も防御力も高い上記モンスターの対処法として、ゲーム中で何度も使ってきた戦法だな。


 そしてやはり、俺はゲーマー的資質が強いのかもしれない。


「さ、さすがにもう限界です、エスメラルダ王子殿下……」

「私もちょっと疲れました……」


 ミルアやローフェミアがそう言って座り込んでいる間にも、

「ははははははははははは! その程度かモンスターども‼」

 俺はレベルアップする快感を抑えることができず、ひたすらモンスターを狩り続けていた。


 ……そういや、小さい頃は余裕でゲームに一日費やせたからな。


 社会に出た後はそんな気力さえ湧いてこなかったが、これが本来の俺の姿なのかもしれなかった。


 睡眠時間など五時間程度で充分。

 食事も手短に済ませればいい。

 とにかく意識の持つ限りレベルアップに時間を費やし、小休止を取っている間もゲームのことばかりを考える。


 ……ゲーマーってそういうもんだもんな。


「す、すごい、エスメラルダ様、ストイックすぎます……」

「これではたしかに、私が抜かされるのも道理か……」


 二人はなにか勘違いしていたようだが、ともあれ、俺は一週間ずっと《エルフリア森林地帯》のなかにこもっていた。



――――――


 エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド レベル50


 物理攻撃力:5035

 物理防御力:4803

 魔法攻撃力:5498

 魔法防御力:4769

 俊敏性  :5002


――――――


 ……うん、やっぱりこれはゲームの主人公よりも強いな。


 レベル50といったら、主人公だとせいぜい物理攻撃力が四桁になるかどうか。


 エスメラルダは怠惰なだけで、その才能はもはや主人公など相手にならないレベルだった。


 具体的に言うと、ゲーム主人公でのステータスはたしかこんな感じだった。


――――――


 物理攻撃力:3500くらい

 物理防御力:3200くらい

 魔法攻撃力:2000くらい

 魔法防御力:1700くらい

 俊敏性  :3900くらい


――――――


 さすがに細かい数字までは覚えていないが、世界の救世主とも呼ばれる主人公と比べて圧倒的な差がついているのは明白だった。



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