嫌われ者の悪役王子に転生した俺、今生こそ好き勝手に生きようと思ったら、無自覚に聖人ムーブをしていた件 〜悪の王国を作ろうとしているのに、なぜか皆に尊敬されてるんだが〜

エルフ王国に足を踏み入れると沢山のおっぱいたち

「こ、ここが、エルフの王国……！」

　目的地に辿り着いた瞬間、剣帝ミルアが大きく目を輝かせた。

　地下水路の一角に隠されていた、人の背丈ほどの小門。そこに足を踏み入れた途端、目の前には雄大な自然が広がっているのだ。驚くのも無理はない。

　ちなみにその小門があった部屋も、ゲームでの設定通り、厳重に守られていた。

　とある壁面に向かって、正しい合言葉を唱えればその部屋へ辿り着ける仕組みなんだが――。

　その部屋には「まもるせきぞう」というモンスターが鎮座していて、侵入者と判断した者に対しては、問答無用で襲いかかる仕組みになっているのだ。

　今回はローフェミアがいたので事なきを得たものの、無用な来訪者を防ぐために、エルフ側も徹底的なセキュリティを敷いているのだと言えた。

「えっへん。綺麗でしょう、うちの故郷」

　圧巻された様子で周囲を見渡しているミルアを見て、ローフェミアが大きな胸を張る。

　そこかしこに生えている大樹、腰のあたりまで生えている草、そして世界の中心にあるとされる《世界の神樹（しんじゅ）》……。

　どれも王都では見ることができないので、ミルアが言葉を失う気持ちはわかる。

　俺も前世のゲームで何度も見てきた光景ではあるが、やはりＶＲとリアルでは再現度（？）がまるで違うからな。

　ミルアと同じように感動しているのが本音だったが、ここで取り乱さないのが大物悪役としての矜持。そんなことよりも気になるのが――。

　まわりにいる美少女エルフたちが、めっっっちゃ可愛いこと！

　おっぱい大きい子も多いし、これは楽園すぎるぞ！

　駄目だ、いくら悪役王子を気取っているとしても、前世ではたぶん童貞のまま死んだからな！　こればっかりは取り乱しても許されてほしい。

「あ、あれは人間……？」

「ローフェミア王女殿下、いったいなぜ……？」

　しかし悲しいかな、俺たち人間はやっぱりエルフには恐怖の対象らしい。

　さすがに悪口や暴言を吐かれるわけではないものの、みんな一様に俺たちを怖がっていることが伝わってくる。紛れもなく、あのユリシア第一王女が生み出した罪だと言えるだろうな。

「気にしないでください、エスメラルダ様」

　そんな俺の様子に勘付いたのか、ローフェミアが俺の手をぎゅっと握ってきた。

「きっといずれ、エスメラルダ様のかっこよさがみんなに伝わるはずです。ですからどうか、私たちのことを嫌いにならないでください」

「…………」

　なるほど、これは驚いたな。

　自分たちも人間にさんざん苦しめられてきただろうに、それでも俺を擁護してくれるとは。変なところも沢山あるが、ローフェミアは文字通り人格者だと言えるだろう。

「ふふ、気にすることはない。大義をなす際には障害はつきもの。これしきのことで動揺はしないさ」

　俺の憧れる悪役の条件の一つ――いついかなる時でも泰然自若とする。

　今生こそ悪役として自分勝手に生きていきたい俺は、この程度のことで取り乱さない。

「ああ、やはりエスメラルダ王子殿下は、私が一生ついていくべき方……」

　ミルアは相も変わらずぶつぶつ言っていたが、エルフたちが怖がっているならば、こんなところで長居している場合ではないだろう。

「さあローフェミア。俺を女王と合わせたいのだろう。さっそく案内してくれないか」

「は、はい……‼」

　ゲーム廃人の俺なら痛いほどわかっている。

　ここエルフ王国には強力な武器防具が取り揃えてあるし、絶好のレベルアップポイントも多数ある。ゴールデンアイアントやシルバースライムなど、経験値効率の良いモンスターがうじゃうじゃいるからな。

　要はここに滞在していれば――俺はより強くなれる。

　これから悪役王子となって人民を束ねるためには、当然ながらリーダーたる俺も強くなければならない。あのクソポンコツ女……ユリシアもなにをしてくるかわからないからな。

　つまり立派な悪役王子になるためには、エルフ王国を自由に動き回れるようになることが必須事項。

　このままではそれが叶わないので、女王との謁見ができるのは俺としても願ったり叶ったりだった。

「けっこん、けっこん……！」

　ローフェミアは別の意味で浮足立っていたが、それについては聞かないふりをしておいた。

★ 　★　　★

「なるほど。あなたがヴェフェルド王国の第五王子……エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド殿でしたか」

　エルフ王国の王城。その玉座の間にて。

　当代女王クローフェ・ルナ・アウストリアが、玉座に座りながら俺を見下ろしていた。

　さすがにエルフ王国の女王が相手とあっては、第五王子もかしこまざるをえないからな。時と場合に応じて謙虚な態度を取るのもまた、大物悪役になるための必要要素だろう。

　そして当のクローフェ女王本人は、ゲームに登場するキャラクターと同じでめっちゃ美人だった。

　翡翠色の長髪を腰のあたりまで伸ばし、透き通るような肌を持ち、そしてお約束のようにおっぱいが大きい。

　実年齢はたぶん五百歳とかそこらへんだったと思うが、エルフという便利設定のおかげで、見た目的には二十代後半くらいのお姉さんだった。

「あれが、第五王子……」

「なぜこんなところに……」

　そして側近のエルフたちも、俺を見てはヒソヒソ話を繰り広げているな。

　明確な悪口までは聞こえてこないが、最近エルフに嫌われまくっている人間の、さらに嫌われ者の悪役王子だからな。悪い意味で注目を浴びてしまうのも無理はない。

　だが――ここで挫けているようでは真の悪役にはなれない。

　たとえ嫌われているとしても、エルフたちの心を掌握してこそ本当の悪役王子といえるだろう。

「お母様、疑う気持ちはわかります。でもエスメラルダ様はすっごい良い人だから、どうか信じて……！」

「ええ、そうですね。ローフェミアが強い信頼を置いているようですから、私もそこまで邪険にするつもりはありません。またエスメラルダ王太子も、この度は娘をお助けくださりありがとうございました」

　そう言って、ぺこりと頭を下げるクローフェ女王。

　簡単にだが、これまでの経緯はすでに話してある。

「ですが」

　女王クローフェの厳しい視線が、ひたとこちらに向けられる。

「三十。これが何を意味するかわかりますか？」

「…………」

「これまで連れ去られたエルフの数です。私たちも以前からずっとヴェフェルド国王に異議を唱えてきましたが、しかし状況は一向に進展しておりません。この状況で友好に接するのも無理があります」

「…………」

「さらには、極秘裏で交渉しようとしたローフェミアでさえ攫われかけた。エスメラルダ王太子には感謝しておりますが、人を嫌うエルフがいることもまた、仕様のないことではないでしょうか」

　……こりゃあ、だいぶ嫌われてるっぽいな。

　まあ無理もない。俺もクローフェ女王の立場だったら、まず間違いなく人間なんて大嫌いだったからな。

「ですから……申し訳ないですが、お引き取りください。今の状態で、あなたたち人間とお話しできることはありません」

　冷たくそう言い放つクローフェ女王。

　このままではエルフ王国を自由に動き回ることなど到底不可能だが、しかし俺は悪役を目指す者。

　良識を持つ者なら引き下がる場面でも、ここで退散するつもりはない。

　周囲の気配を探ってみると、第三師団と思わしき怪しい気配があるからな。今か今かと次なるエルフを攫おうとしているようだが、ククク……エルフ王国に取り入るために、おまえらを使わせてもらうぞ。