悪役ムーブしてるはずが、なぜか尊敬されまくってる気がする

 終わった。


 あれだけ威勢のよかった男たちも、今ではもう身じろぎ一つしない。


 しばらくは目を覚まさないだろうし、仮に意識が戻ったとしても、手足が負傷しているので満足に行動できないだろう。


 やはりこの第5王子、ゲームの主人公より圧倒的に強いな。

 初期ステータスが妙に強いので、あとはゲームの知識と本気さえ出せば余裕で勝てる。


「ふふ……ふふふ……」


 しかしここで勝利の余韻に浸っているようでは、悪役っぽさがない。


 それはどちらかというと主人公ポジのやることだ。


 悪役王子たる俺が今やるべきは、ただひとつ――。


「勝った! 俺は勝ったのだ‼ ははははは(ry」


 大仰に両腕を広げて悪っぽい笑い方をしようとしたが、しかしそれはエルフの少女に遮られた。


 なぜならもんのすごい勢いで抱き着かれたからだ。

 もちろん、大きいおっぱいも当たっている。


「ありがとうございます、助けてくださって……!」


「うおっ……やわらか……!」


 前世ではあまり異性経験がなかったためか、反則級の柔らかさに思わず気が飛びそうになってしまった。


 が、それもやはり真面目な主人公ポジが取る言動だ。


 俺は「ふっ」と意味深な笑みを浮かべると、努めて動じていないふうに言った。


「王族として……いや、人として当然のことをしたまでだ。君のほうこそ、怪我はなかったかな」


「はい……! おかげさまで無事です……!」


「そうか、ならよかった」


「か、かっこいい……」


 そのまま目をキラキラさせているエルフの少女。


 歳は俺と同じか、ちょっと下くらいか。


 まだローブを羽織っているのでよく風貌は見えないが、あどけない顔つきをしている割に胸はバチクソ大きく、こりゃあ確かに男たちが夢中になるのも頷ける。


 ……クク、しかし見た目に違わず純粋な女だな。


 俺は男たちが一生懸命にアプローチしていたところに乱入してきた、いわゆる寝取りクソ野郎だ。それでも俺のほうに好意が傾いてしまうわけだから、やはり王子+イケメンは強いな。


 剣帝ミルアという超絶猛者も部下に加わっているし、着実に俺の王国が築かれつつある。


 そんな感想を抱きながらも、ぐりぐりと身体を押し付けてくるエルフのおっぱいの感触を堪能するのだった。


★  ★  ★


 私――剣帝ミルア・レーニスは深い感動を覚えていた。


 やはり第五王子エスメラルダが秘密裏で特訓していたことには意味があったのだ。


 エルフといえば、私たち人間と比べて圧倒的に強い種族。


 少女はまだ幼いゆえに逃げるしかなかっただろうが、成人したエルフは人間とは比較にならないほどの魔力を有する。人間の魔力を一とすれば、エルフは十……。


 それほどの差が開いているのだ。


(その反面、人族と比べて人口が少ないという難点もあるが)


 それでもエルフが人間たちに何もしていないのは、基本的にエルフが平和主義者だから。種族間で争うことに無意味さを唱え、できるだけ対話で解決を試みようとする――。


 それがエルフたちの姿勢だった。


 おそらくユリシア王女を筆頭とする貴族たちがエルフを攫っているのも、そのあたりに原因がある。


 この種族であれば多少痛い目に遭わせても、どうせ何も言ってこない。

 だからこうしてエルフを襲い、長寿に繋がるとされる血を奪い取る……。


 こんな非人道的な行為がまかり通っているのだ。


 きっとエスメラルダ王子殿下はここに目をつけたんだろう。


 街に出た直後にやや挙動不審だったのは、おそらく男に追われているエルフを捜し出すため。


 そしてそれを見つけた後は、その圧倒的な武力を用いて男たちを制圧する――。


 特に痺れたのは、一見して無精に見えるその男たちを、なんと第三師団の軍人だと見抜いた点だ。


 この第三師団は前述のユリシア王女と関係が深いため、これで点と点が一つに繋がる。


 ユリシア王女が第三師団を率いて、エルフを捉えようとしていた――ということが。


 ……やはりエスメラルダ王子に着いてきて正解だった。


 彼は本気で、この腐った世の中を是正しようとしている。

 強き者が弱き者を虐げ、自分たちの利権を貪ろうとする構図を正そうとしている。


 醜い玉座争いを目にしてきた彼だからこそ、王族たる彼しかできないことを、今ここで果たそうとしてくれている。


 今までの私ならば、王族を信じることは到底できなかったけれど。


 ――王族として……いや、人として当然のことをしたまでだ。君のほうこそ、怪我はなかったかな――


 この優しさ溢れる発言に、彼のすべてが表れていると思う。


 エルフの少女はとても可愛い。

 あと胸も大きい。

 そんな彼女に抱きしめられているとあっては、並の男なら下世話な考えが思い浮かぶはず。


 しかし彼はその様子をおくびにも出さず、先ほどまで迫害を受けていた彼女を気遣う姿勢さえ見せている。


 遠慮なく抱き着いているあたり、少しエルフの少女に嫉妬しなくもないが――。


 彼ならば、きっとこの世界を変えてくれる。

 そう信じられる気がする。


 だからこそ、ミルアも意を決して王子に話しかけることにした。


「エスメラルダ王子殿下……。私もその、抱き着いてもいいですか?」


「は?」


「王子殿下と距離が近いのは、そのエルフよりも私ですから。ですから私のほうが抱きしめてしかるべきだなって」


 そう言いながら、よく「大きい」と言われる胸部を強調してしまう自分。


 こんな下世話なこと、本当は大嫌いなのに。彼を相手にすると、それが崩れてしまう気がする。


「ふっ」

 エスメラルダ王子は再び意味深な笑みを浮かべると、右腕をこちらに手差ししてきた。

「いくらでも好きなように飛び込んでくるがいい。俺がしっかり受け止めてやる」


「お、王子殿下……!」


 あまりに優しいその発言に、私は思わず彼の上半身にダイブをかましてしまった。


 ああやっぱりかっこいい素敵すぎる彼に触れただけで身体が震えるしやっぱり胸がキュンキュンしてしまう今まで恋愛に全然興味なかったけれどこの気持ちはきっと本物ああ彼ともっと近い距離で接する日が訪れるのだろうかいやん何考えてるの私のえっち(ry


「おいミルア、鼻血出てるぞ⁉」


 王子にそう話しかけられたのを最後に、私の意識はぷつりと途切れた。


―――――――――   

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