エルフの美少女、悪役王子の虜になる

「ふふ、さあどういうことかな諸君。仮にも王国軍に所属している者が、俺が王族とわかっていてもなお突っかかってくる。何か・・があると考えるのが妥当ではないか?」


「ぐ……」


 俺がそう問い詰めるも、男たちは黙ったまま後ずさりするのみ。


 ちなみにユリシア王女と第三師団に繋がりがあるっていうのは、当然口から出まかせではない。紛うことなきゲームの公式設定だ。


 基本的に主人公の一人称視点で進むゲームだったので、王家で繰り広げられていたという玉座争いについて、細かいところまで語られていたわけではないが……。

 しかし男たちの反応を見るに、俺の推測は正解だったようだな。


「ふふ……」


 だがまあ、俺にとっての最優先は当然エルフの女の子。


 国家に渦巻く陰謀も、王族たちの玉座争いも、それを取り巻く貴族や王国軍たちにも興味はない。俺はただ、悪役王族をまっとうして好き勝手に生きられればそれでいい。


 俺は咄嗟に地面を蹴ると、男たちの間をすり抜け、尻餅をついたままの女の子と距離を詰める。


「な……⁉」

「馬鹿な……⁉」


 数秒遅れて男たちがこちらを振り向くが、もう遅い。


 俺は少女の顎をくいっと持ち上げると、小声でこうささやいた。


「怯えることはない。俺がこいつらを倒す。もう少し我慢しててくれ」


「…………ッ」


 決まった。


 少女は顔を真っ赤にして、こくこくと頷いている。


 やっぱ王子+イケメンって反則要素だよなあ。前世では女性向けのファンタジー恋愛小説も読んでいたが、ヒーローにはイケメン王子がめっちゃ多かった。


 だがその小説と大きく異なるのは――俺はヒーローではなくあくまで悪役王子。


 モテない男が女の子を一生懸命口説こうとしていたのに、それを外見と身分だけでかき回していく、小説でよくある悪役なんだよ。


 現にも今、エルフの少女の目はまさにハートの形になっているからな。


「ふふふ……」

 俺はゆっくり立ち上がると、前髪をさらりと掻き上げながら男たちへ振り向いた。

「ごめん、寝取った☆」


「なんか知らんがムカつく‼」


 顔を蒸気させ、その場で地団駄を踏む男たち。


 いいね、実に三下らしい言動だ。俺の強さも一緒に際立たせてくれる。


「まあ、そういうわけでおまえらには眠ってもらおうか。一瞬で片づけてやるからな」


「なんだって……⁉」


 さっきまで地団駄を踏んでいた男たちの視線が、ぎろりとこちらに差し向けられる。


「いい気になるなよ小僧。いくら王族といえど、証拠さえ残さなければ殺してもいいって言われてるんだぜ?」


「……ほう? 誰にだ?」


「答えるかよ馬鹿野郎ッ!」


 男の一人が威勢よくそう言い放つが――。


「はっはっは、元気なのはいいことだがな。もっとまわりを見てないと駄目だぜ?」


 奴らが剣を構えたその直後には、俺は男たちの背後に回り込んでいた。


 ゼルアネス流の剣技が一つ、《瞬透撃(しゅんとうげき)》。


 ゲーム世界ではすべての技を主人公に習得させていたので、その使い方が身体にもう染みついている。主人公の場合はいちいちレベルを上げないと強い技を使えなかったが、このエスメラルダは最初から強い技を扱える。


 ――やはりこの第五王子、あまりにもチートだな。


「殺しはしない。だがもう、二度とその手で剣を握れるとは思うなよ……!」


 俺はそう言い放つと、男たちの両手両足に鋭い斬撃を見舞う。


「がぁぁあぁぁぁぁあああ……っ‼」


 鋭い痛みを感じたか、その場にうずくまる男たち。


 本当ならこの場から逃げ出したいだろうが、足を深く斬りつけておいたので、走ることもままならないだろう。そして手首にも強い攻撃を与えた都合上、剣も持てないはずだ。


「……どうだおまえら。ゴブリンにさえ負けた男に敗北する屈辱はよ」


「あ、ありえない……! 俺たちとて欠かさず訓練してきた身なのに、なぜ出来損ないの第五王子などに……!」


「へえ? 訓練ってのはなんだよ、おい」


 意識が朦朧とし始めているのも構わず、俺は男の一人の前髪を掴み上げる。


 こういう仕草も悪役っぽくていいよな。


「言うわけが、ないだろう。――今後はどうか頼みましたぞ、敬愛するユ……」


 そこまで言いかけて、男たちは意識を失うのだった。

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