第8話 女神召喚

「ふーーっ」


 冥が私の顔を見て大きなため息をつきました。


「では、まずキノの、攻撃力低下の魔法を解除します」


 一つ解除すると、キノの足下に小さな風が起きました。


「うわあー!」


 冥が悲鳴を上げた。


「冥、どうしたのですか」


「お師匠様、お師匠様の攻撃力低下は、攻撃力を半分にするのですね。すごい魔法だ。そして、キノ様の攻撃力が倍になって、最早一撃で俺に致命傷を与えるほどです」


「そんなことですか。どんどん解除します」


 解除する度に、キノの足下に丸く風が起きて広場の石畳のほこりを飛ばした。その風の円が倍々に大きくなり、それに連れて風の強さが倍々で大きくなった。


「わあああーー」


「冥はうるさいですねえ。何ですか?」


「もう、キノ様の攻撃力の上限がわからなくなりました。こんな攻撃力は見た事がありません」


「まだまだ、こんなものではありません」


「ぎゃああーー!!」


 その後は冥が、魔法の解除の度に悲鳴を上げ続けました。うるさくて、しょうがありません。

 結局輪の大きさが四十メートル位になり、風は台風のようになりました。

 風が強すぎるため、ギャラリーは建物の中に避難しました。

 私達は、台風の目にいるので風の影響は受けませんでした。


 全部の攻撃力低下の魔法を解除したら、キノの体は青く光っています。


「キノ様、絶対攻撃をしないで下さい。攻撃をしたら、この街がいえ、この世界がどうなるかわかりません」


「冥は、大げさですね」


「いいえ、けっして大げさではありません。信じてください」


「そうかしら、王国騎士団の団長は、これより強いのですよ。キノには王国騎士団の団長よりは、はるかに強くなってもらわないと困ります。さて、私の防御魔法と収納魔法以外の魔法の解除も終りました。いよいよ、召喚魔法をためしてみましょうか」


「お師匠様、神の召喚なんて大それた事は、何が起るかわかりません。いまなら、まだまに会います。絶対やめた方がいいと思います」


「大丈夫です。ほんの少しキノを綺麗にしてくれたらいいのです。人間が使う魔法ごときで、あなたが恐れるような神様が呼べるはずが無いでしょ」


「いいえ、お師匠様の魔力で呼べば、かなりやばい神様を呼んでしまうはずです。本当におやめください!」


 冥は手を合せて、もはや私を拝んでいます。


「全く、冥は大げさです」


「……」


 冥は何を言っても無駄とあきらめたようです。表情は泣きそうな顔になっています。とても神獣玄武の顔とは思えません。

 まさか、私の魔力は意外とすごいのでしょうか。

 いいえ、そんなはずはありません。

 まだ六年しか修行をしていないのですから


「さあ、行きます」


 もう一度、両手の平を天に向けます。


「変ですねー、魔法陣が見えません」


「お、お師匠様。それは、輪の大きさが広すぎている為だと思います」


 冥は、ひょっとしたら、この星の外まで、魔法陣が出てしまっていると言いたいのでしょうか?


「冥、怒りますよ。いくら何でもそんな訳はありません。失敗しただけです」


 私は、召喚魔法は使えると思っていましたが、どうやらそれ自体が思い上がりだったようです。


 ゴオォォォォォ……


 私がそう思っていた時に、地をはうような低く重い音が響き、白い濃いモヤがあたりを覆い隠しました。

 そのモヤは、濃さも量も勇者キノを呼び出した時と大違いの多さです。


「うわあー!! な、なんじゃ!? 何が起ったのじゃー!?」


 モヤは相変わらず多いままですが、声で何かが召喚出来たのがわかります。

 話しぶりからすると、きっとお年寄りでしょう。


「冥、成功したようです」


「はは、は、はい」


 冥は何かを感じ取っているみたいで震えています。


「あなたは、美の女神様ですか?」


「そうじゃ、わらわは美と豊穣の女神、ヒナじゃ」


「よかった。ちゃんと美の女神でした。あの、勇者キノを美しくしてください」


「はーーっ、お前はわらわを、そんなことのために召喚したのか」


 ようやくここで、モヤが薄らいできて、ヒナの姿が見えてきました。

 現れたヒナは、とても美しく女神の様でした。

 お年寄りなのは話し方だけのようです。

 服はローブのような物を着けていて、まるで女神のようです。


「うっ、うつくしーー」


 私は、つい口から漏れてしまいました。


「当たり前じゃ。わらわは美の女神じゃ。美しいから美の女神なのじゃ」


「はっ!?」


 すでに、私は嫌な予感がします。

 でも、怒るのは、早とちりの可能性があります。

 ちゃんと聞いてから結論を出しましょう。


「あの、勇者キノを少しで良いので美しく……」


「おぬしは、馬鹿なのか。わらわは、美しいから美の女神じゃ。他人を美しくなど出来ぬわ!」


 でしょうね。

 口ぶりで大体わかっていました。


「冥、わかったでしょ。しょせん、私が呼べるのはこんな出来損ないです」


 私は、自分のふがいなさに震えながら、冥に言いました。

 冥に八つ当たりをしていますね。


「お師匠様! 出来損ないではありません。この方は充分すごい女神様です」


「ほう、お前は神獣玄武じゃな」


「はぁーっ!! なにが、『神獣玄武じゃな』ですかー。あなたごとき、出来損ないのひな鳥が偉そうにするんじゃ無いわよ」


 あー、いけません。

 頭にきて、怒鳴ってしまいました。


「わらわを、出来損ないのひな鳥じゃとー。……はわわ、な、な、何じゃおぬしは、とんでも無い魔力なのじゃ。おぬし……あなた様……お師匠様が、わらわを召喚したのですか?」


「まあ、そうね。おかげで魔力が、すっからかん。少し宿屋で眠ります。全員で私を守りなさい」


「す、すっからかんとか言いながら、すごい魔力があるように見えるのじゃがのう」


「……」


 冥は苦笑いをしています。


「まあ、細かいことは、明日にしましょう。すぐに宿屋で休みます」


 魔力は自然回復もしますが、今回のようにほとんど無くなってしまうと、元に戻すには宿屋に泊まる方が速いのです。


 ヒナと冥、キノを護衛にして、この日は宿屋に泊まりました。

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