第7話 王都の魔導師

「フレセントさーん!! み、見つかったのですか!」


 男女の二人組が、ギルドに飛び込んで来て受付嬢に話しかけた。

 受付嬢の名前がフレセントというのでしょう。


「はい。ドク様、リア様。今、丁度あそこでお食事をされています。でも、あの方で合っていますか?」


「……せ、先生だ。合っていますとも、合っています!!」


 勇者キノは、席についた冥を、頬をピンクに染めて、うっとりして見つめている。

 冥は席に座ると、少し冷めて益々まずくなった料理を、美味しそうにモリモリ食べ始めた。

 そのキノと冥をあきれ顔で私は見つめている。

 そんな私を見つけて、二人の目には涙が一杯溜まってきました。

 どうやら、一生懸命探してくれていたようです。

 六ヶ月間行方不明って、私の事だったようです。


「あら、ドク君、リアさん。久しぶり」


 私達の席に近づいてきた二人に声をかけた。


「久しぶりではありません。どれだけ心配したか」


 二人の目から涙があふれ出しました。


「な、なんだ、まさかあのおちびちゃんが、王国魔導十字勲章の大魔導師様の先生なのか」


「うそだろー」


 隣の冒険者が私達を見てつぶやいています。

 ちょっと、待って下さい。

 この二人が、王国の勲章を叙勲した二人なのですね。


「まさかと思いますが、あの魔法をもう発表したのですか」


「は、はい。……ひょっとしたら、発表してはいけませんでしたか?」


 二人が真っ青になっています。


「いいえ、二人の魔法なので何をしようと自由ですよ。でも、私なら内緒にするから驚いただけです」


「えーーっ、何故内緒にするのですか」


「うふふ、密かに練習して、いざというときに使って、皆を驚かせたいじゃない」


「そんなことのために、内緒には出来ません。こんな素晴らしい魔法は、一刻も早く公表しないと人類の損失です」


「そ、そうですね。きっとそうなのでしょうね。でもちょっと、そこまでの魔法では無いと思いますよ」


 あの程度の魔法でちょっと大げさです。


「そこまでの事です!!」


「あー、はい」


 なんだか、叱られてしまった。


「先生! 学園へ戻って下さい」


「うふふ、うれしい申し出、ありがとうございます。でも、今の私はこの方達と修行をしています。まだしばらくは、修行を続けるつもりなので戻ることは出来ません」


「えっ!? 先生ほどのお方がまだ修行をするのですか」


 ドク君が驚いています。


「先生お願いです学園に戻って下さい」


 リアさんはそれを気にしないで、自分の思いをぶつけてきました。


「そうですね。王都にはやり残したことがありますので戻る予定はあります。その時はお二人をお訪ねします。ですから、もう少し修行をさせて下さい」


「ほ、本当ですか。お待ちします。必ず来て下さいね」


 リアさんが喜んでいます。


「おい、リア! 見て見ろ!!」


 ドク君が、キノを見て驚いています。

 どうやら勇者だとバレてしまったようです。


「ああっ! 勇者キノ様じゃないですか。すると先生が勇者様に修行をつけていたのですね」


 リアさんが尊敬のまなざしで見てきます。


「先生、勇者が行方不明になって、王都では大騒ぎになっていますよ。見つかったら先生にどんな罰が与えられるか」


 ドク君は真面目ですね。

 私の心配をしています。


「うふふ、だから、二人にはもう少し内緒にして欲しいの。勇者と修行をして、強くなって必ず戻りますから」


「おいおい、まさか、あの、勇者と冥っていうのが地龍を倒したんじゃねえのか?」

「ああ、そうだ。そうに違いない。A級冒険者が束になっても勝てねえのだから間違いねえ」

「まてまて、さっき、あの冥ってーのが、勇者のことを俺よりつえーって言ってなかったか」

「ああ、言っていた……」


 ギルドの冒険者達が、ザワザワして、最後には静まりかえった。


「あの、先生、冒険者の話では、もうずいぶんと強いように感じますが」


「いいえ。まだ、王国騎士団の団長より弱いと噂されています。最低でもそれよりは強くなりたいと思います。それまで、黙っていてほしいのです」


「最低でも、王国騎士団の団長より強くなる……。そんなに強くなることが可能なのですか?」


 そうですね。人間の到達出来る最高峰と言われていますからね。


「うふふ、それが出来ないのなら、魔王討伐は王国騎士団の団長がやれば良いのでしょ。王国騎士団の団長程度では魔王に勝てない。だから勇者が召喚された。ならば勇者は王国騎士団の団長を圧倒出来るところまで強くなってもらわないといけません。今の勇者ではそこまでになっていません。だから、まだしばらく修行が必要なのです」


「先生は、勇者がそこまで強くなると信じているのですね」


「そうね。他の人では勇者をそこまで強くは出来ないでしょう。ですが、私なら可能です。いいえ、私にしか出来ないでしょう。だから私がやるのです」


「……」


 二人は何も言わず黙りこんだ。


「わかりました。先生を信じてお待ちします」


 リアさんが先に言いました。


「ええ、お願いしますね」


 ドク君も納得してくれた様子でリアさんとギルドから出て行きました。

 私は、静かになった店内で、冥をうっとり見つめるキノに視線が引き寄せられました。

 不憫ですね。もう少し美しければ、良かったのに。

 キノの容姿が可哀想になりました。


 ――私って、他人からはこんな風に見えていたのですね。自分ではもう少しましだと思っていました。


 このままではだめです。もう少し美人にして上げたい。

 もともと私ですしね。


「そうだわ。美の女神を召喚して、キノを美人にしてもらいましょう」


「お師匠様、何を言い出すのですか。神を召喚するなんて、罰当たりなことは無理です」


 冥が、食事の手を止めて、目を見開き言ってきた。


「そうでですかー。でも召喚は目の前で見た事がありますし、出来るのじゃ無いかなあ」


「無理です。神ともなれば、下っ端でも大量の魔力が必要ですし」


「わかりました」


 冥が、あきらめたと思ってほっとしています。

 でも、余計に召喚したくなりました。

 こうなったら、ほんの少しでも勇者キノを美人にしましょう。

 折角の異世界です。強くなるだけでは無く美人にもなりましょう。


「二人とも、冥の食事が済みましたら少し場所を変えます。広場に行きましょう」




 冥の食事が終るのを待って、私達は街の広場に移動した。

 何故か、ギルドからゾロゾロギャラリーの冒険者がついて来た。

 冥は、これから何が起るのかという顔をしていましたが。


「お師匠様!! まさか!?」


「ふふふ、やっと気付きましたか。これより始めます」


 私は広場の中央に立ち両手を広げた。

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