第5話 にらみ合い

「はあーはっはっはっ!! キノ様、本気で攻撃をしなければ、成長はありませんぞ」


 冥は、キノの今の攻撃ではダメージを受けないようだ。

 余裕で笑っている。


「ほ、本気でやっています。手加減などしていません」


 全く本気で答える必要も無いのに、キノは真面目に答えました。

 キノには、当然私が攻撃力低下の魔法を何重にもかけているので、ダメージが出せないだけなのです。


「冥、私の魔法を解除しても良いのですよ」


「ひゃあああ、や、やめてください」


「じゃあ、真面目にやりなさい」


「分かりました。お師匠様」


「うむ」


 この頃では、冥まで私を師匠と呼びます。

 神獣玄武の加護のおかげで、キノの成長も私の成長もやや上がりやすくなっているようです。

 まあ、二割程度じゃ実感はあまりありませんけどね。






 六ヶ月が過ぎた頃とうとう、この日が来ました。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁーーーー!!!! ま、待ってくださーーーーい!!」


「キノ、ストップ!!」


「は、はい」


「冥、どうしました?」


「あぶねー、もう少しで死ぬところでした」


「そうですか。私の魔力が足りないばかりに、無茶をさせました。ごめんなさい」


「いいえ、お師匠様は何も悪くありません。俺のせいです。俺の方こそ力不足で申し訳ありません」


 どうやら、キノが成長しすぎて、攻撃力が上がり、冥を殺しそうになってしまったようです。

 私の攻撃力低下魔法は、魔力不足でこれ以上かけられません。

 まあ、キノの攻撃力がそれだけ大きくなりすぎたという事です。


「一度休暇を取って、街に行ってみましょうか」


「えっ!?」


 二人が驚いています。

 そんなに驚くような事でも無いでしょう。

 街に戻るのは実に簡単です。

 私の移動魔法で、瞬時に移動出来ます。

 ですが、その前に、綺麗な川で体と服のお洗濯は必要でしょう。


 ダステンの街につくとすぐに私達は、冒険者ギルドに行きました。

 ギルドの中には、食事をするスペースがあるので、そこに席を取りおすすめの食事を三人分注文しました。


「おーーい!! たったたたいへんだーー!!」


 少し年配の冒険者が、飛び込んできて叫びました。


「どうしました?」


 受付嬢が身を乗り出して質問します。


「き、聞いてくれ。大森林の地龍の巣が空になっているんだ」


「何ですって」


「それもよう。一カ所だけじゃねえんだ。六カ所全部だぜ」


「引っ越しでもしたのかしら。それともドラゴンでも来て、食べちゃったのかしら」


「うおおおおおおおおーーーー!!!!! たたたたた、たい、たいへんだーーーーー!!!!!」


 さっきの冒険者より、もっと驚いた様子で、もっと大きな声で叫びながら男が入ってきました。

 男は頭のはげた髭面の体の大きな冒険者です。


「うるさいわねー。こっちは地龍の話しをしているのよ。それ以上何があると言うのよ」


「ば、ばっきゃろー。それどころじゃねえ。霊山が無くなって、砂漠になっているんだー」


「な、なんですってーーー!!!!」


 ギルド内の冒険者全員が慌てている。

 私達をのぞいて……。




「はい、注文の品です」


「ありがとうございます」


 私は、料理を運んで来たメイドさんに御礼を言って、料理を受け取った。


「はい、どうぞ召し上がれ」


 私は、この世界の料理はあまり好きではありません。

 冷蔵庫がないので、肉も野菜も少し腐りかかっていて臭くて、味が全体に塩辛すぎるからです。


「うめーーーー!!!!」


 馬鹿舌の冥が喜んでいます。


「そう、良かったわね」


「うっ……」


 キノはつらそうに一口食べて飲み込みました。

 二口目は食べようとはしません。


「どう、キノおいしい?」


「無理です。食べられません」


「でしょうね。現代の日本食を食べて来た人には無理でしょうね」


「な、なんだ。お師匠様もキノ様も食べないのか」


「ふふふ、冥、全部食べていいわ」


「本当か。じゃあ、全部もらう。ふへーーっ」


 冥が三人分を目の前に置き、喜んで食べ出した。

 せっかくいい男なのに、こんなまずい料理を美味しそうに食べているところを見てしまうと、幻滅してしまいます。

 もっとも、山という事を知っているので、好きになる事はありませんけどね。

 でも、私達がギルドに来たタイミングで、こんな情報が入ってくるなんて出来すぎです。




「そう言えば聞いたか?」


「なんだ?」


「先日、国都から王国魔導十字勲章を叙勲された二人が、この街に来ているらしい」


「あー、あの新種の魔法を発見したっていうあれか」


「そうそう。その二人が人探しで来ているらしいのさ」


「それが、あの二人かなー? 受付のフレセント嬢と話しをしている所を見た。何でも半年くらい前にここで、冒険者登録をして、行方不明になっている先生を探しているんだとよ」


「へー。見つけたら、大金ゲットって事か」


「どうだろうな、掲示板には出てねーからな。正式な依頼はまだなんじゃねえのか」


 隣の席で、冒険者同士の噂話です。

 こういう情報が手に入るので、ギルドでまずい食事をする価値があるというものです。

 王国魔導十字勲章なんて物は聞いたことがありません。

 そんな物が新設されるほどすごい魔導師なのでしょう。

 私も魔法を教えてもらいたいくらいです。



「おーーい! 酒だ酒ーー!! 全くよー空振りだぜー。近くのモンスターでも狩ろうかと思ったが、それすらもいなかった、どうなっているんだー」


 ギルドの入り口から十人以上の男がぶつくさ言いながらドカドカ入ってきた。


「おい、見ろよ、地龍狩りのA級冒険者達だ」


 隣の席の冒険者達が、またヒソヒソ言っている。


「おい、邪魔だ。見たらわかるだろう。席を空けるんだ」


 私達は静かに食事をしていましたが、とうとう矛先がこちらに向いてきました。

 A級冒険者の一人。体も大きくて人相も人一番恐ろしい奴が、私達の席に来ました。


「おい、見たらわかるだろう。俺達は食事中だ」


 冥はこれっぽっちもひるむことは無く言った。

 いえ、主にあなただけが、食事中なのですけどね。


「ひゃーーはっはっは! バカなのかてめーは! こっちはA級冒険者だぞ、これが見えないのか」


 口では笑いながら、目は少しも笑っていない。

 悪人顔の冒険者は階級章を指さした。


「冥、やめなさい。あなたは、さっき死にそうになったばかりで、回復しきっていないでしょ」


「お師匠様、それでもここにいるバカ共を相手にしても負けることはありません」


 冥は面倒臭いことに、神獣玄武の化身だからか私の魔法が効きません。

 減っている体力は、自然回復を待たないといけないのです。


「あんたねえ……」


 冥がバカ共と言ったせいで、ここにいるA級冒険者全員を敵にしてしまったようです。

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