第2話 東の街へ

「この世界には不思議なルールがあります。それは、隠されているのか公表されていません」


 この世界にはと言いましたが、私のいた日本にも不思議な力がありました。

 例えば、霊が見えるなどという霊視、テレキネシスやテレパシーなどの超能力と呼ばれる不思議な力。

 独自に研究されていますが、学校では習うことがありませんでした。

 この世界の不思議なルールは、それと同じだと思っています。


 この世界にある色々な不思議なルールを、召喚されたばかりの私はまだ知りません。

 ですから、勇者での五年間を全く成長できずに、皆からカス勇者だの。馬鹿勇者だの、ハズレ勇者だの、と言われました。

 五年後に、やっと独自にそれに気付くことが出来ました。


 それは、魔力を持ったG虫が出たことで気が付いたのです。

 この虫の素早さに翻弄されて、一晩中、格闘しました。

 これで、強くなったのです。

 翌日、見違えるように強くなっていました。

 魔力を持った生き物、モンスターとたたかう事が強くなることだと気付いたのです。


「……ゴクリ」


 二人はふたたびツバを飲み込み、私の目を見つめます。


「この世界では、本当に成長したい時は、魔族か魔獣を倒さないといけません」


「うふふ、先生、私はすでに知っています」

「僕も知っています」


 ええーっ、知っているのー!!

 私がビックリです。

 私が召喚された時は、それを知らなかった為、剣を持って素振りと訓練ばかりしていました。それでは、ちょっぴり筋力がアップするだけで、勇者に期待される強さを持つことが出来ませんでした。

 勇者のまわりには知っている人がいないのか、誰も教えてくれませんでした。それとも知っていたけど教えてもらえなかったのでしょうか。

 まあ、いいです。今回教えるのは、それでは無いのですから。


「そう、じゃあ話しが早いです。この金色の魔法陣の魔法は、常に成長します」


「えっ!?」


「常にと言うことは、敵と戦っていない時にも成長すると言う事ですか?」


「はい、だって、治癒魔法ドクターは怪我をしている人にかけます。戦闘中じゃない時にも使うでしょ。防御魔法バリアも同じです。」


「じゃあ、魔力がある時ならいつ使っても成長できるのですね」


「す、すげーー」


「うふふ、金色の魔法陣の魔法はすべて同じように成長します」


「と、言うことは……せ、先生は、他にも金色の魔法陣の魔法が使えるのですか?」


「はい。二人がバリアとドクターを充分マスターしたら、教えてあげますよ。まずはその二つを完璧にマスターして下さい」


「はい!!」


 二人の声がそろった。


「じゃあ、二人ともお元気で」


「せ、先生……」


 二人の目に涙が一杯溜まっています。


「いつか、また再開しましょう。楽しみにしています」


 私は、王都の魔法学園を後にしました。


「さて、どこに行こうかしら」


 私は悩んでいます。

 このまま勇者の元へ行き、成長の仕方を教えてしまおうかと。

 でも、それでは、歴史を変えてしまう。

 それをしてはいけないと考えを改め、魔族の国から遠く離れた、東の外れの町ダステンに行こうと考え直しました。




 王国、東の外れの町ダステン

 魔族の国からは遠く離れていますが、北に深い大森林がある城塞都市です。

 町は高い石の壁に守られ、建物は皆、頑丈な石作の町です。

 私がまずむかうのは、この街の冒険者ギルドです。


「こんにちは」


「……」


 受付であいさつしたのですが、姿が見えないので、受付嬢が返事をしてくれません。


「あの、小さいので……」


「ま、まあ、ごめんなさい」


 受付嬢さんはカウンターの外に出て、私の前にしゃがんでくれました。


「私は、見た目は幼いですが、丁度五十歳です」


 私は、嘘を言っていません。

 日本で二十九年、勇者で十五年、そして転生して六年たっています。

 だから、人間として五十年たっているのです。


「ええーーっ、五十歳。そういえば、魔力の高い魔女はロリババア化すると聞いたことがあります」


 ロリババア化ってなんですかー。


「この街での登録をお願いします。これが登録証です」


「はい、最下位のGクラスのントゥワさんですね。えっ、Gクラス」


「あー、私は魔力が多いのですが、攻撃魔法が使えません。ですから弱いのです。Gクラスが妥当です」


「ひひひっ」


 まわりで聞いていた冒険者達の中で失笑がおこりました。

 とても感じが悪いですが、まあこんなもんです。

 勇者で召喚された時もこんな感じでしたから慣れています。


「そ、そうですか。ではこの街での登録をします」


「その間にお仕事を見てきますね」


「あ、はいどうぞ」




「なあ、ばあさん、おしめ変えてやろうかー」


 ああ、いきなり質の悪い冒険者にからまれました。

 おしめがいる歳じゃねえわー。

 と言いたいところですが我慢我慢。

 どうするかなー。


「やめないか。こんな小さな子に。しかもGクラス、弱い者いじめはやめろ」


 綺麗な防具を着けた美形の金髪のC級冒険者です。

 でも顔が半笑いです。

 あんたも、たいがい失礼ですね。

 まあ、でも助かったのは確かですね。


「あ、あのー、ありがとうごじゃいます」


 あーしまった、言いたくなさ過ぎて噛んでしまった。

 でも、表情は目を大きく開いて、パチクリして可愛さをアピールしておきます。


「くー、良く見たら滅茶苦茶かわいいじゃねーかーー。ほーら、たかい、たかーい」


 私の脇に手を入れて、たかい、たかいをしやーあがりました。


「きゃっ、きゃっ」


 仕方が無いので喜んでやりました。


「じょうちゃん! 困ったことがあったら、俺にいいな、俺はC級冒険者パーティー絆のリーダー、オリアンだ」


 床に降ろしてもらって、私は乱れた服をパンパン払って直し、ペコリとお辞儀をした。

 顔が下を向いているので、私は怒りの表情を隠さなかった。

 そして、ふたたび顔を上げると笑顔を向けて手を振った。

 まあ、すこし頭にきたけど、これでC級以下の冒険者にからまれることはないでしょう。


 壁の仕事の募集にはG級の物はありませんでした。

 私は、ガッカリして受付嬢のところに戻りました。


「あっ、ントゥワさん、登録は終りました。これからよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 私は冒険者ギルドを後にした。

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