転生したのはかつて自分が召喚された、自分のいる世界でした

覧都

第1話 勇者召喚

「わあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


 王都の広場で歓声が上がった。

 今日ここで、異世界から勇者が召喚される。

 大勢の魔法使いが巨大な魔法石を使い一つの魔法の術式を展開している。

 空に巨大な青い魔法陣が浮かび上がった。

 広場は強い光に包まれ何も見えなくなった

 しばらくしてようやく視力が回復してくる。


 広場の中央に白い濃いもやが立ちこめている。

 それが少しずつ薄らぐと貧相な裸の女性が中央に立っている。

 大事なところはすべてもやが隠してくれていた。


「うわーーああああっ」


 またに手をやり、貧相な胸をかくしてバタバタ走りだした。

 そう、あの女性こそが、生まれ変わる前の私だ。

 異世界の日本という国から召喚された、真面目だけが取り柄の私だ。

 この後、十五年かけて世界最強になり、百万の軍勢と共に魔王軍に決戦を挑むものの、黄色い閃光で一瞬にして全滅させられる。それが、あの間抜けな勇者の私なのです。


 私は勇者としての人生を終えると、ふたたび勇者が召喚される世界の六年前に生まれた。

 すべての記憶をもったまま……。






「先生! 先生も来ていたのですね」


「ええ、リアさんも来ていたのですね。あなたはこういう事に感心が無い人だと思っていましたよ」


「私は先生の方こそ、こういう事に関心が無い方と思っていました」


「うふふ、ドク君も来ているのですか」


「はい、来ています。呼んできましょうか」


「いいえ、それには及びません。私はすぐに帰りますから」


 私はそう言うと、移動魔法で王都の魔法学校に戻り、魔法図書室にある自分の机に戻った。

 それは、なるべく勇者との接触を避けたいと思っているからです。

 勇者の未来を変えてしまうと、世界がどうなるかわからないので、勇者と距離を取らなければと思っているのです。


 一人タイムパラドクス、タイムマシンも無いのに……。

 もし、未来を変えたらどうなるのでしょう。

 例えば、弱い成長前の勇者を、今すぐに私が殺してしまうと、私はどうなるのでしょうか。消えてしまうのでしょうか。

 十五年後、死なないように決戦を避けさせると、どうなるのでしょう。やはり、消えてしまうのでしょうか。


 うふふ、試すわけにはいかないのですけどねー。

 さあ、ここにはもう用はなくなりました。

 そろそろ、勇者に会わないように世界の片隅にでも引っ越さないと……

 この時の私は、そんなことを考えていました。



「先生! あー……いたいた。よかったー」


「リアさん! や、やめてください」


 リアさんは私の脇の下に手を入れると高い高いをする。

 今の私の見た目は六歳の幼女、リアさんは高校三年生、幼児扱いです。


「先生が思い詰めた顔をしていましたので、いなくなるのではと、心配になり来てしまいました」


 す、するどい。

 まさにいなくなろうとしていました。


「バレて、いましたか」


「……」


「リアさんと、ドクさんのおかげでここに残っていられましたが、ここには私の探す物が無い事がわかりました。そろそろ出て行こうと思います」


「せ、先生……」


 リアさんが悲しそうな顔になります。


「先生。あっ、いたいた」


 そこにドク君が入ってきました。


「ドク君、丁度良い時に来て下さいました」


「せ、先生!? どうしたのですか改まって」


「ドク、先生が、先生が出て行って……」


「二人とも聞いて下さい。あなた達に授けたい物があります。今日まで私がここにいられたのは二人のおかげです。感謝の気持ちを込めてお渡しします。受け取って下さい」


 リアさんの言葉をさえぎって、二人に話しかけました。

 私も馬鹿ではありません。学校で私の悪い噂は十分知っていました。何もしないガキと言われていたのです。

 ただ、この二人が私に師事してくれているおかげで、クビにならずに済んでいたのです。

 出ていく前には恩返しがしたいと思っていたのです。


「はぁっ!?」


 二人が目を白黒させています。

 私が二人に与えようとしているのは、新種の魔法です。

 ずっと最高学府で探していましたが、見つけることが出来なかったので、間違いなく新種の魔法のはず。


「補助魔法の中の、防御の魔法と、治癒魔法です。二人の名前から取って、バリアとドクターと名付けました」


「ええっ!!」


「まずは見てください。バリアです」


 手のひらを上にして魔法を発動させます。

 魔法陣が手のひらの上に浮かび上がりました。

 手のひらサイズの小さな魔法陣で、小さな薄い黄色の円形の盾が手のひらの前に出ます。


「これが防御魔法、魔法の盾、バリアです」


「あの、魔法陣を書き写してもいいですか」


「どうぞ」


「す、すごい。間違いなく新種の魔法です。今まで学んだどの魔法とも違います」


「この魔法は、物理攻撃も魔法攻撃も防ぎます」


「これは、リアさんに与えます」


「次は、ドク君へ」


 ナイフで軽く皮膚に傷を付ける。

 そして、さっきと同じように魔法を発動させた。


「おおお、き、傷が治っていく」


「どうですか。これがドクターです」


「僕も書き写してよろしいですか」


「どうぞ」


 魔法陣には、何か文字が出るのですが、これが何を意味しているのか解明されていません。

 日本語でもないようです。

 この世界の人は、魔法陣を記憶して魔法を発動します。

 私は、魔法の結果をイメージして発動すると、それに応じた魔法陣がかってに出るので、いちいち憶える必要がありません。この世界の人はそれが出来ないようなのです。


「先生、手を出してください」


「はい」


 私は素直にドク君の前に手を出しました。

 ドク君が私の手にナイフを近づけて傷を付けようとします。


「わあ!! 何をしているのですか。自分の手でやって下さい」


「あっ、そ、そうですね。すみません」


「プッ」


 リアさんが噴き出しています。


「まずは、自分の魔法が自由に使える様に練習して下さい」


「はい!!」


「その後は、お互いの魔法を両方使える様に練習して下さい」


「はい!!」


「これは、まだ誰も知らないことなのですが、二人には説明した方が良いのでしょうか?」


「き、聞かないで下さい。それに、そこまで言ったら、最後まで教えて下さい」


「そうですね」


「ゴクッ」


 二人は、私が何を言うのか期待して、ツバを飲み込んだ。

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