第34話





 次の日の朝。

 朝食の後、俺はフィアとともに教会を目指して歩いていた。

 ミリナは町で遊び、イルンは迷宮に向かうそうだ。


 フィアとともに並んで歩いていると、周囲からは羨ましがるような視線を向けられる。

 ……たぶん、カップルか何かと勘違いされているんだろうな。

 フィアは容姿はもちろんだが、体も出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。


 あれだけ酒を飲んでいるというのにだらしのない体にならないのは、彼女が日頃からしっかり体を動かしているからかもしれない。


 それほどの美少女と並んで歩いているのだ……嫉妬されるわな。

 周りに勘違いされて、変な奴に狙われないことを祈るしかない。


「そういえば、レンさんは前の世界のことってどのくらい覚えているんですか?」


 歩いているとフィアがそんなことを聞いてきた。

 イルンとは同じ部屋だから雑談もそこそこあったが、それ以外の人とはそこまで話すことがなかった。

 一応、迷宮にいるときなどに話してはいたが、あまり話しているとレヴィートやゴーグルに叱られるからな。


「いや……よく覚えてないんだ。体があまり丈夫じゃなくて、それで死んじゃったってことくらいだな。……気づいたらこの世界にいて、今のパーティーに出会った……って感じだ」

「そうだったのですね。今は体の方は大丈夫なのでしょうか?」

「……そうだな。特に問題はない、と思う」


 前世は少し動いたらすぐに体調を崩していた気がするが、今はそういったことはない。

 ……恐らくだが、前世の体のままこの世界に来ていたら、今頃俺は最初の森でゴブリンの餌にでもなっていたのではないかと思う。


「それならよかったですね。追放者の方々の多くは前世の記憶が安定していないみたいですし、気にする必要はありませんよ」

「そういえば、教会で接したことがある……みたいなこと話していたよな? 結構多いのか?」

「はい。教会では困っている人の救済を行うのが仕事、ですからね。追放者の方々もよく来られます。……救済、といってもできる範囲ではありますが」


 ……まあ、教会だって万能ではないだろうからな。

 それでも、仕事を紹介するくらいはできるのかもしれない。


「……そうか。追放者って、やっぱり皆そこまで強くないのか?」

「残念ながら、私が見てきた中でCランク冒険者に到達しているのはレンさんだけです。やはり、ステータスが成長しませんからね……。もしもレベル1のときに出会えていて、レンさんのようにすべてのスキルが解放されているのでしたら、支援魔法使いの道を提示できると思いますが……ほとんど皆さん、レベル15くらいまでやってある程度スキルやステータスにボーナスポイントを割り振ってしまっていて……今さら、という方々ばかりなんですよね」

「【ボーナスポイント再割り振り】のスキルを持っている人も、中々いないよな」

「はい。それと、【ボーナスポイント獲得量アップ】、でしたか? これまでに聞いた中では一度もそういったスキルを持った人はいませんでしたし」


 ……あの大量にあるスキル群の中で、どれを選ぶべきかは分からないよな。

 ていうか、適当に選んでも強くなれそうなスキルばかりだったしな。

 まさか、ステータスが伸びないというバグがあるとは誰も思わないはずだ。


「追放者の人たちを救済する、って話していたけど……どんな感じになるんだ?」

「追放者の方々の強みは、珍しいスキルを所持していることです。ですので、それを活かせるような仕事をしていただきます。……わりと皆さん、【鑑定】系のスキルを所持している方が多いのでだいたいは商人などのそういった店の手伝いを提案していますね」

「【鑑定】か。確かに、選べるスキルの中だと無難なんだよな」


 【鑑定】のスキル説明は、使用することであらゆるものの情報を得ることができる、だ。

 何も知らない異世界に転生させられるなら持っておきたくなるよな。

 ただ、その【鑑定】に関しても、いくつかあった似たような効果のものがあったはずだ。

 多少効果は違うようで、俺はなんとなくで【鑑定眼】を選んだのだが。

 選んだ理由はかっこよさそうだから、だけであるが。


「皆さんこちらの世界に来る前に神……と出会いそこでスキルを選んで取得できると聞いていますね。教会は神を信仰しているため、神様の力で送り込まれてくる方々の扱いもそれなりにいいほうなんですよ」

「……なるほどな」


 追放者たちは皆、神の使いとか思ってくれているのかもしれない。

 だからフィアも俺と普通に接してくれているのだろう。


「レンさんのようにもっと有用なスキルを選べば……と今だと思ってしまいますね」

「……ただ、異世界の情報はまったくなかったんだよな。戦いのある世界なんだなぁ、くらいの情報しかなくてな。まさかステータスが成長しないなんて思いもしなかった」

「それは、神様ももう少し説明してあげてほしいものですね。きちんとしたスキルが選択できれば、きっと今ほど追放者、などと言われることもなかったと思います。皆さんがレンさんのように戦えていれば、神の使い、とかそんな風に言われていたかもしれません」


 ……確かに、その光景も想像できなくはない。

 俺が一か月かからない程度でここまで戦えるようになった。仮に、支援魔法使いとしてしか戦えなかったとしても、この世界では少ないのだから需要はあるはずだ。


「この世界の人たちって、レベルアップのときにステータスが上がって、ボーナスポイントがもらえるよな?」

「はい、そうですね」

「一般的にはどのくらいもらえるんだ?」

「私が昔聞いた話では、どちらも0から、10とかくらいまで確認されているそうですね」

「……0、ってこともあるんだな」

「はい。私も筋力や体力といったあまり使わないステータスの成長は悪いときがありますが、全体的に高めの成長をしています。そういった人は、才能がある、ほうに分類されるようで、私もわりと聖女の中では期待されていたんですよね」

「そうなんだな。でも、聖女は続けないんだな」

「はい。……レンさんは、聖女にどのようなイメージがありますか?」

「……そうだな。なんかこう、真面目でしっかりしている……とかか?」


 聖女という言葉からの響きで思いついたことを伝えると、フィアは苦笑を浮かべる。


「そうなんです。さらに言えば、聖女には教会から与えられるルールがいくつかあります」

「ルール?」

「まず、食事などは教会で管理されます。もちろん、酒類を飲むことは禁止されていますし、お菓子類などもとることはいけません。ちゃんとした体を維持する必要があります」

「……厳しいな」

「聖女は人々の前に立つ仕事ですので、ある程度容姿もしっかりとしている必要があるそうなんです。聖女のスキルとして必須だった回復魔法と結界魔法を持っていたとしても、容姿で聖女になれない人もいるくらいですからね」

「……なんかそう聞くと、別の仕事みたいだな」

「演劇の役者、とかも容姿だけで採用されることもありますからね。そう考えると聖女もそういった華やかな仕事の印象を持たれることがあります」


 ……なるほどな。

 俺の前世にもそういった仕事があったような気がするし、どこの世界でも容姿というのは一定の評価を得られるんだろうな。


「フィアはもっと好きにしたいから、聖女を辞めたってことか」

「そうですね。市民と接して悩みを聞く……といったような仕事こそなくなりましたが、こうして人手が足りないときには結界の張りなおしには呼ばれますね」

「まあ、俺が同じ立場なら辞めていたかもな」


 苦笑する。聞く限り、中々に色々と制約のありそうな仕事だよな。

 それでもフィアの話しぶりからして、この世界の人たちにとっては憧れの仕事なのだろう。


「そうですか? 昔聖女をやっていたと話すと、周りからよく言われますよ。『もったいない』、『意味が分からない』、『頭おかしいんじゃないか』とかですね。まあ、この仕事って安定してますし、もらえるお金も多いですから仕方ないんですけどね」


 フィアの表情には、少しだけ悲しみの色が見えた。

 ……追放者として様々なことを言われていた俺としては、フィアも理不尽な感情をぶつけられてきたのかもしれない。

 そう考えると、ある意味で俺たちは似ているのかもしれない。


「人それぞれ、大事にしていることは違うからな。フィアはフィアの大事にしたいことを大事にすればいいんじゃないか? 俺だって、追放者として馬鹿にされてるけど、自分のやりたいことをやってるわけだしな」


 そういうと、フィアは少しだけこちらを見てから、嬉しそうに笑った。


「……そうですね。私はこれからも好きなものを食べて、飲みまくろうと思います」

「ああ、それでいいんじゃないか?」


 聖女も、色々と大変なんだなぁ、とか思っていると教会に到着した。

 教会について中へと進んでいくと、一人の綺麗な衣装に身を包んだ女性に出迎えられる。

 綺麗な女性だ。……【鑑定眼】で見てみると分かるが、フィアと似たようなスキルを所持している。

 ……もしかしたら、彼女は聖女なのかもしれない。

 女性の隣には、鎧に身を包んだ人もいる。……彼女の護衛だろうか? 騎士たちと雰囲気が似ているが、少し様子が違う。


「久しぶりだ。フィア」

「久しぶりですねレクシアさん」


 レクシアと呼ばれた綺麗な女性とフィアは知り合いのようだ。

 お互い笑みをかわしあったところで、レクシアがちらちらとこちらを見てくる。


「……ところで、質問だがそちらの男はなんだ?」

「私の彼氏です」


 上機嫌に、少し冗談っぽさを混ぜながら、フィアは俺の腕へと抱き着いてくる。

 むにゅっと、彼女の暴力的な柔らかな物が腕に当たった。



―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る