第33話






 リナーリアを救助した次の日。

 十分休んだ俺たちはレヴィートたちとともに、俺たちはBランク迷宮へと来ていた。

 前回のレベルアップのおかげでポイントも増え、だいぶ支援魔法に余裕が出てきた。


 作戦は前回の迷宮攻略のときと同じだ。

 まんべんなく強化するのではなく、後衛を強化している。

 というのも、スキルは全体的に魔法系スキルのほうが消費魔力が高く、威力が高いらしい。


 つまり、まとめるとこうだ。

 剣士は、燃費はいいが瞬間的火力が低い。

 魔法使いは、燃費は良くないが、瞬間的火力が高い。


 ……そして、俺の支援魔法で魔力が回復しまくっている現状では、前衛を強化するよりも後衛を強化するほうが効率がよいのだ。

 まあ、魔法耐性が高い敵などもいるので、毎回この作戦が通じるわけでもないがこのBランク迷宮ではこのほうが効率が良かった。


 特にネオワーウルフを相手にする場合は魔法のほうが良い。斬撃耐性がどうにも高く、レヴィートやイルンの攻撃は通りにくい。

 現在はゴーグルが耐えられるように体力を強化する支援魔法をばらまきつつ、レヴィートとイルンには【速度強化】のみのバフを。


 そして、このパーティーでフィアは攻撃に参加しないため、ミリナの魔法を強化する方向でスキルを取得している。

 ……おかげで、ミリナが魔法を連発するため、問題なくネオワーウルフを倒していけている。

 数が増えてもゴーグルが時間を稼ぎ、ミリナが仕留める、という基本的な構成ができている。


 イルンは常に周囲の警戒を行い、フィアはゴーグルが死なないように回復魔法を使い続ける。

 ……レヴィートは、うん、一生懸命ネオワーウルフを攻撃している。ただ、まったく筋力系は強化してないし、【エンチャント・火】もつけていないのでダメージは微々たるものだと思う。


 ……そもそも、今の俺たちは個人でみれば恐らくCランク迷宮が適正なんだと思う。それを無理やりBランク迷宮に来ているせいで、どこかしらに歪みが出ているのだ。

 レヴィートは魔物を倒せないことで結構苛立っている。


「おい、追放者! てめぇ、ちゃんとバフはかけてるのか!?」

「ああ。なるべく後衛を優先するって話しただろ?」

「オレを、優先しろ! オレはリーダーだぞ!? リーダーが一番魔物を倒してないって問題だろうが!」

「別に……倒せているならよくないか?」

「よくねぇよ! ああむかつく……本職の支援魔法使いならこんなことねぇんだろうなぁ……!」


 ……俺がレヴィートの立場なら楽できてラッキー、くらいに思いそうなんだけど違うのだろうか?

 レヴィートだって全く仕事していないわけではない。ゴーグルが押し切られない程度にはネオワーウルフを引き付けてくれているし。


 攻撃面では不安あるが、【速度強化】と【速度強化+】があるのでレヴィートがネオワーウルフの攻撃を喰らうことはほとんどないし。

 たまに殴られている姿は見るが。


 そんなこんなで順調に狩りをしつつ、今日は終了だ。

 レヴィートも、さすがにまだボスモンスターへ挑戦しようとは言いださなかったな。


 俺の感覚では、Cランクのボスが、Bランクの雑魚より少し強いくらいの印象だ。

 となると、BランクのボスはきっとAランクの雑魚より少し強いくらいになるはずだ。……まあ、迷宮によって個体差もあるようだけど。


 同じCランクでも、チェンジスライムの迷宮は結構難易度が高いほうらしい。逆に、エリートハイゴブリンの迷宮はCランクの中間くらいだそうだ。


 ネオワーウルフの迷宮はBランクの真ん中くらい。だが、たぶん今のままボスモンスターに挑戦しても、恐らくゴーグルが耐えきれない。

 ……俺としては、ゴーグルが耐えられるようになったら一応Bランク迷宮が攻略できるとは思っている。


 目安としては、ネオワーウルフ六体に囲まれてもどうにか耐えられるくらいか。

 今は三体くらいまでは何とかなってるが、四体以降は危ない場面がある。


 そんなことを考えながら報酬の清算をする。

 とうとう7156500ゴールドだそうだ。一日の稼ぎとしてはかなりのものだ。


 今回は誰も使い手こそいないが、斧のドロップもしたからなのだが、こうなると冒険者は夢がある職業だというのが分かる。

 一応レアドロップ抜きでも、500000ゴールドくらいは稼げているみたいだからかなり効率は良くなってるよな。

 もちろん、俺への分け前はないのだが……。


「ねぇ、いい加減レンにも分けなさいよ。レベルだって追いついてきたんだし、面倒見てやる、っていう段階じゃないでしょ?」


 ミリナが言葉を選ぶようにして、レヴィートにそういってくれた。

 俺が優秀だから、とか言ったら絶対レヴィートはキレるからな。

 ただ、すでにレヴィートは苛立った様子だ。そこに、フィアとイルンも続けて口を開く。


「そうですね。明らかにメンバー全体の能力が向上していますし、追放者、だからという理由だけで差別するのは良くないと思いますが」

「今、うちのパーティーが問題なく戦えているのは、レンのおかげだと思うけど……」


 しかし、フィアとイルンの指摘にレヴィートは顔を顰めた。


「は? そいつが本職の支援魔法使いなら、今頃オレたちはBランク迷宮のボスも討伐してるだろうが」

「そうだそうだ。そいつが優秀ならオレがあんなに崩されることもねぇんだよ」


 レヴィートとゴーグルが三人を批判する。

 もともと、そこまで仲良かったパーティーではないのだが……これ、俺が原因で完全に分断されていないだろうか?

 ただ、レヴィートたちとミリナたちでは根本的に考え方が違う。


 レヴィートたちは、俺を追放者として見ている。彼らは俺が何をしても、追放者なのだから、と言ってくる。本職の人なら、もっとできるとさらなる要求をしてくる


 ミリナたちは、俺をレンという一人の人間として見ている。この世界の冒険者として、俺の能力は十分評価に値する、と言ってくれている。


 ……ここが、違うんだよな。

 だから、どれだけ言い合っても答えは出ない。平行線の道を並んで歩いていくだけだ。


「俺は別にいいから。レベルが上がっただけで十分だから」


 今の俺のレベルは27。普通に生活していたらここまで一気には上げられないだろう。

 もちろん俺も金がもらえれば、装備とかも整えられる。そうなれば、さらに支援魔法を強化できるかもしれないが……まあ、それはこのパーティーとの契約が終わってからでも問題ない。


 それより今は、どこまでレベルを上げられるか、そこのほうが重要だ。

 今のところ、生活費を稼ぐことは余裕そうだが、レベル上げはやはり高ランク迷宮に潜る必要がある。


 恐らく、レヴィートたちのパーティーから追い出された後、俺はソロになる。

 追放者である俺は、レヴィート含め相変わらずあちこちで馬鹿にされる。

 対応してくれるギルド職員の中にも、露骨に見下してくる人もいるからな……。


 そういうわけで、今の俺はレベルをお金で買っているようなものだ。だから、そこまで理不尽には感じていない。

 生活に必要な宿とかは負担してもらっているしな。


「そんじゃ、明日は予定通り休みだからな」


 レヴィートとゴーグルはそう言い残して、去っていった。

 またいつものように夜の店へと遊びに行くのだろう。

 宿へと向かっていったときだった。フィアがこちらをちらと見てくる。彼女の美しい金髪が揺れるように首を傾げてくる。


「レンさん、レンさん。明日の予定は決まっていますか?」

「特にはないなぁ……ステータス弄って、EランクかDランク迷宮にでも潜ってみようかと思ってたくらいだな」


 もう俺の情報を三人には伝えていたので、予定を隠す必要もない。


「一人ってことよね? あんまり無茶するんじゃないわよ?」

「俺だって死にたくないからな。大丈夫だ」

「……あのぉ、予定が決まっているところ申し訳ないのですが……ちょっと私のバイトに付き合っていただけませんか?」


 フィアが控えめに言ってくる。予定、というほどがっちり決まってはいなかったので、少し話を聞いてみる。


「……バイト?」

「はい。聖女のバイトです」


 出た。聖女のバイト。

 明らかに聖女とバイトという言葉がかけ離れているように感じる。

 ただ、少し興味がある。


「どんなことをするんだ?」

「結界の張り直しですね。そろそろ前回張った結界が緩くなってきますので、改めて張りなおすんです」

「結界……えーと、どこの結界なんだ?」

「ふふ、町を覆うように張られているんです。それの張りなおしのバイトがありますので、どうでしょうか? レンさんも協力してくれませんか?」

「……支援魔法での援護、ってことか?」

「はい。かなりの魔力を使いますので、それを回復できるレンさんがいれば、その分の費用や時間が浮きますから。もちろん、報酬も山分けしますよ?」


 聖女がどのような仕事をしているのか、ちょっと気にはなっていた。

 この世界の人たちにとってはどうやら常識のようなものだろうし、見学してみたい気持ちはある。

 別にソロで迷宮に潜るというのも、急ぐようなことはないからな。


「分かった。それじゃあ、明日は付き添ってもいいか?」

「もちろんです」


 嬉しそうに微笑むフィア。

 結界の張りなおしに俺がどのくらい力になれるか分からないが、期待に応えられるようにしないとな。



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