第32話


 ギルドの扉を開けて中へと入る。

 ほとんど人の気配はなく、職員も最少人数だ。


 ギルドは緊急事態に備えて夜間でも最低限の人数は残しているそうだ。ただし、素材の買取などはこの時間は受け付けていないのだとか。


 冒険者も数名はいたが、日中のような騒がしさはない。

 その中に、レヴィートとゴーグルの姿があった。

 彼らの驚いたような目がこちらへ向けられると同時だった。こちらに気づいた職員が声を張り上げた。


「リナーリアさん!? 皆さん、無事戻ってきてくれたんですね!?」


 職員の声に反応して、一斉に皆の視線が集まる。職員はすぐに奥の部屋へと向かい、男性を連れてこちらへやってきた。


「リナーリア! 良かった……皆無事のようだな……」


 男性はほっとした様子で息を吐き、リナ―リアは小さく頭を下げた。


「ギルドマスター。ごめん、心配かけた」


 この人がギルドマスターなのか。

 もともとは彼がレヴィートに依頼を受けるよう説得するような感じだったよな?


「いや……迷宮の変異に巻き込まれたのは仕方ないことだ。皆、無事に戻ってきてくれたのだから十分だ。それと、レンだったかな?」


 ギルドマスターの視線がこちらに向く。

 本来は彼がレヴィートに依頼を出していたはずだ。

 ……今回は俺が勝手に引き受けてしまったので、怒られるのだろうか?

 そう思っていると、彼はゆっくりと頭を下げる。


「依頼を受けてくれてありがとう。君たちのおかげで、こうして皆無事に生還できた。本当にありがとう」

「それは、気にしないでください。レヴィートへの依頼を勝手に受けてしまって、すみませんでした」

「別に、特定の誰かに向けてではない。依頼は達成されればそれでいいんだ」


 それなら良かった。

 まだ異世界の常識などは知らないので、何かの罪に抵触している可能性とかもあるからな。

 まあ、その場合はミリナたちが止めてくれていたと思うけど。

 俺たちが生還を喜んでいたときだった。

 明るいムードを破るように、レヴィートの声が響き渡った。


「お、おかしいだろ!? なんでこんなことになってんだよ!? そいつ追放者だぞ!?」


 レヴィートがそう叫んだところで、リナ―リアたちが初めてこちらに驚いたような目を向けてくる。

 ……そういえば、追放者であることは説明していなかったな。

 リナーリアたちの反応を見て、レヴィートも俺が話をしていないことに気づいた様子で話し出す。


「おい、そいつは元の世界で無能で追放された追放者なんだぜ? そうだよ。ああ、分かったぜ。迷宮のレベルが低かったんだろ? リナーリアでもどうしようもないって、リナーリアも腕が落ちたもんだな」


 レヴィートとゴーグルはそれで納得した様子だった。ただ、それにリナーリアが苛立った様子で目じりを釣り上げる。

 ……それは、リナーリアだけではなく助けた冒険者たちもだ。彼女らの鋭い視線にさらされ、さすがにレヴィートたちも少し怯んでいる。

 その中で、リナーリアが怒気の含んだ声をぶつける。


「別に私のことはどうでもいいけど、レンは強い」

「は? 何言ってんだ? そいつ追放者だぞ? 迷宮に閉じ込められて頭おかしくなったのか?」

「別に。……組んでて理解できないなら、無理に説明する必要はないから」


 リナーリアが小さく息を吐いた。

 俺の支援魔法は、Eランクの冒険者をCランクの魔物に通用するまで引き上げることができる。

 リナーリアの能力だって、恐らくBランク冒険者……下手すればAランク冒険者くらいまで引き上げていたはずだ。


 ――支援魔法を受けて体感できていないのなら、それを説明する必要はない。

 その言葉に、リナーリアのすべてがこもってくれていたのだろう。


「とにかく……皆今日は疲れているだろう? 迷宮の様子などについての話は、また後日でも大丈夫だ」


 報告の必要があると思いギルドに立ち寄ったが、確かに俺たちはわりと眠気に襲われている。

 迷宮という緊張感のある場所を出てからは、結構眠いので横になりたかった。

 ギルドマスターの厚意に甘えさせてもらおう。


「それじゃあ、俺たちは休みませてもらいます」

「ああ。お疲れ様。本当に助かったよ」


 ギルドマスターが改めてそう言ってから、リナーリアが口を開く。


「私は少し仮眠を取っていたから、迷宮の状況などについては話しておく。こっちは任せて」


 リナーリアがあとは引き継いでくれるようだ。

 ギルドマスターも頷いてリナーリアに声をかける。


「リナーリア、すまないな。それじゃあ、奥で聞こうか」

「うん。それじゃあ、皆。本当にありがとう」

「「「ありがとうございました」」」


 ぺこり、とリナーリアたちは深く頭を下げる。

 ……と言われてもな。

 お礼を言われた俺たちは顔を見合わせ、苦笑する。


「まあ、たまにはこういう事故もあるわ。気にしなくていいわよ」

「ええ。迷宮の変異は仕方ありませんし」

「そうそう。無事で何よりだよ。次は君たちが助ける側に回れるようになればいいんだしね」


 そういうことだ。

 冒険者として困ったときはお互い様、なんだと思う。

 リナーリアがすっと頭をあげてから、微笑とともに手を振ってくる。


「またね、レン」

「ああ、また」


 また会うのかどうかは分からないが、リナーリアにそう返すと彼女はギルドマスターとともに奥へと向かう。

 他の冒険者たちには休むように伝えていたので、俺たちも彼女らとともにギルドの外に出ようとする。

 そのときだった。


「おい。てめぇら、今日も迷宮に潜るんだからな?」


 声をかけてきたのはレヴィートだ。

 隣にいるゴーグルはにやにやとこちらを見てくる。


「……今日は休ませてくれないか? さすがに徹夜で疲れてるんだ」

「勝手に潜ったからだろうが? じゃあ、今日の分の稼ぎがなくなった分てめぇが補填してくれるのか?」


 まあ、勝手に依頼を受けたのはそうなのだが。

 とはいえ、こんな状態で迷宮に潜っても事故が発生する可能性がある。

 なので、なんとかしてレヴィートを納得させたいのだが……金を渡すくらいしかないんじゃないだろうか?

 といっても、レヴィートを満足させるような金額は持ってないしな……。

 とか思っていると、レヴィートの言葉を無視するようにフィアが歩き出す。


「他の人は知りませんが、私は休みますよ。別に今日までの稼ぎがあれば、一日くらい休んでいても問題ないでしょう?」


 フィアの強引な言葉に、レヴィートが慌てたように声を上げる。


「お、おい!」

「僕も今日はちょっとね。ばいばい」

「あたしはもちろん行く気ないわよ。ほら、レン。帰るわよ」

「……ああ」

「てめぇら……! はっ……! そっちがそういう態度とるって言うなら、こっちも考えがあるんだよ……!」


 レヴィートは苛立った様子で声を張り上げたが、俺たちは無事ギルドから脱出することに成功した。




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