第31話


 リナーリアが呼んできたところで、皆に自分ができることと今の冒険者ランクについて確認する。


「リナーリアさん以外、私たち皆Eランクです……っ。魔法アタッカーで、得意なのは火魔法ですけど……あのスライムには何もできなかったです……」

「私は近距離アタッカーの槍使いです。それなりに戦えると思っていましたけど……Eランクなので、あまり期待しないでください……」

「私はディフェンダーです。……さすがにこの迷宮の魔物相手だと……厳しかったです……」


 皆、急にCランクの魔物と戦わされて、自信喪失しているようだ。

 最後、リナーリアが俺の目を見て答える。


「私は近距離アタッカーで、今はCランク。この刀が武器だけど……チェンジスライムには相性が悪い」

「近接攻撃は効きにくいみたいだからな」


 道中イルンも攻撃をしていたが、スライム特有の体になかなか攻撃が通っていなかった。

 大きく戦力が向上することはないだろうが、リナーリアはCランクもあれば十分動けるはずだ。


「三人は基本的に後ろに下がってとにかく自分の身を守ってほしい。リナーリアには、イルンと同じようにディフェンダーのような動きをしてもらいたいんだけど、大丈夫か?」

「どんな感じ?」

「ミリナとフィアが魔物を仕留めるまでの時間を稼ぐって感じだ」

「分かった」


 昔パーティーを組んでいたとは聞いていたので、その説明だけで十分納得してくれたようだ。


「念のため、今の俺たちの戦い方も見てもらいたいから……そうだな。階段の出口付近まで行こうか。三人は階段から見てもらって、リナーリアには実際に戦いに参加してもらっていいか?」

「分かった。それならパーティー申請してもらってもいい?」

「そうだな」


 リナーリアに魔法が当たったら大変だ。

 俺が申請を送ると、リナーリアはすぐにパーティーへと入る。

 そして、先ほど伝えた通り、俺たちはチェンジスライムとの戦い方を見せるため、移動する。三人が見える位置にいると、チェンジスライムが四体現れた。

 俺はすぐにデバフを放ち、ミリナとフィアも魔法を撃つ。

 しかし、向こうも反応が速い。


 回避に遅れた一体以外はかわす。ただ、ミリナとフィアが追撃の魔法を放っていく。

 防戦一方になったチェンジスライムたちの足止めをするようにイルンが短剣を振る。

 動きを止めた一体が、それでフィアに射抜かれる。


「……こんな感じだな」

「……凄い。三人とも、一緒にパーティーを組んでいた時と動きがまるで違う」

「俺が支援魔法で強化しているから、多少は強くなってるかもな。今、リナーリアにもかけてあるから……体の感覚を慣らしておいてくれ」

「分かった」


 リナーリアがそう言って、軽く体を動かす。それから、チェンジスライムへと向かう。

 刀は鞘に納めたまま、一気に近づいて抜刀する。

 その一閃はチェンジスライムを切り裂いて、仕留めた。


「……へ?」


 ……一応、【武器強化】とか【エンチャント・火】とか使っていたが、まさか倒せるとは。

 帰りは心配……か。

 訂正だな。リナーリアのおかげで、戦力だいぶあがるぞ。

 油断はできないが、これなら帰りのほうが楽そうだ。


「……ちょっと待って。おかしい。……支援魔法ってこんなに上がるもの?」

「まあ、こんなに上がるものだ」


 困惑した様子でリナーリアが自分の刀を見ている。

 ……とりあえず、俺はこう答えるしかないからな。


 それから、念のためにと冒険者三人にも戦闘を行ってもらってみる。

 チェンジスライム一体を残したところで、三人に戦ってもらう。


 フィアが回復魔法で支援をしながらではあるが……なんとか戦えているな。

 ちょっと時間はかかるが、三人で一体くらいならどうにかなりそうだ。

 戦闘に参加してもらう予定はないが、自分の身を守るには十分だ。


「……おかしい。Eランク冒険者がCランク迷宮で魔物を倒せるなんて……それに、物理耐性の高いチェンジスライム相手に……」


 リナーリアが驚いた様子でずっと俺の支援魔法について話している。


「気にしなくていいわよ。レンはちょっと優秀な支援魔法使いなのよ」

「……そう、なの? ……凄い」


 リナーリアも驚きつつはあったが、納得したようだ。

 ……三人組の冒険者は純粋に喜んでいるだけだ。この辺りは経験の差なのかもしれない。



 


 迷宮をどんどん降りていくため、危険なのは最初だけだった。

 それでも、慎重に進んできたため、救助に向かうときよりも時間がかかってしまった。


 その結果。

 外に出る頃にはすっかり明るくなっていた。ずっと暗い遺跡の中を歩いていた俺たちとしては、その朝日は目に来るものがあった。

 ただ、それ以上に、


「外だ……っ!」

「やった! 私たち……無事戻ってこれたんだ!」

「よかったぁ……良かったよぉ……」


 冒険者たちは嬉しそうに涙を流していた。

 ……Cランク迷宮に閉じ込められていたのだ。

 救助まで速やかに行動できたとはいえ、それでも彼女らからすれば凄まじい不安に襲われていただろう。

 助けられて、良かったな。


「まだ町にはついてないんだ。あと少しの間、気を張ってくれ」

「レンのいう通り。町に戻るまでが冒険だから」


 俺がそういうと、リナ―リアが改めて冒険者たちを𠮟りつける。

 しかしまあ、リナ―リアの表情も最初に会ったときよりも落ち着いている。

 いくら彼女がCランクの冒険者だとしても、イレギュラーに巻き込まれて不安や恐怖はあっただろう。……それに、彼女はこのパーティーのリーダーとしての責任もあったはずだ。


 俺には図り切れない思いがあったに違いない。……だからこそ、レヴィートにあんな条件を出されても救助を要請したんだろうし。

 帰り道。といっても、Cランク迷宮から脱出できるまでになった俺たちに、敵はいない。

 途中、ゴブリンに襲われたが難なく撃退し、町へと到着した。


 俺たちはまっすぐにギルドへと向かう。


―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る