第30話
「あたしは持ってないわね」
「私も持っていませんね。そういうスキルがあるというのは聞いていますが、あまり所持している人はいないと思いますね」
「……そうなんだな」
結局のところ、どのようなスキルが取得できるかは人それぞれ、ということか。
「……まあ、この感覚に慣れすぎてしまうと危険な気がしますが」
「……ほんとね」
支援魔法前提で立ち回ると、色々と崩れてしまいそうだよな。
……俺も、今の状態が普通ではないということは理解しておいたほうが良さそうだ。
そんなことを話しながら、俺たちは十階層へと到達する。
「……元々の迷宮と同じ構造なら、次の階段にいるはずよね」
報告では、リーナリアたちは十階層にいるときに突然変異に巻き込まれた。
だから、階層が入れ替わるようなことがなければ、リーナリアたちは次の階にいる……いてほしいものだ。
「そうだね……とりあえず、まずは殲滅からだね」
イルンがそう言った時、周囲の通路からチェンジスライムが襲い掛かってくる。
ただ、奴らがこちらに攻撃を仕掛けるより先に、魔法が襲い掛かる。
チェンジスライムたちは魔法をかわすように動いたが、イルンが斬りかかる。
イルンの攻撃は、スライムの体によって弾かれたが注目は集める。
魔法が残っているせいで視界が悪いので、俺はミリナとフィアに指示していく。
「その火の中にいるチェンジスライムはまだ倒しきれてないから、ミリナ頼む。フィアは左から来ているのを倒してくれ」
二人はすぐさま指示通りに魔法を放ち、チェンジスライムを仕留める。 ほとんど一撃なのだが、たまに優秀な個体が残るんだよな。
イルンが引き付けていた最後の一体に、ミリナとフィアの魔法が撃ち込まれ、仕留めた。
「……十階層も問題ないわね」
「この辺りから魔物も強くなるんだけど……恐ろしいくらいスムーズだね」
「それでもイルンには負担をかけてるからな。なるべく最速で進んでいこう」
イルン一人でチェンジスライムたちを引き付けているからこそ、スライムたちに魔法を当てられている部分もある。
こいつら、動きは遅いのだが、たまに機敏に攻撃したり、回避したりするんだよな。
「レン。あそこ!」
曲がり角を曲がったところで、階段の入口が見えた。
ようやくか。
ここまで、わりと素早く移動してきていたが三時間ほどかかってしまっている。
……この迷宮、一階層が広いのでずいぶんと手間取ってしまった。
それでも、今の俺たちなりに最速で来ることはできた。
「……あとは、いてくれればいいんだけど」
ミリナがぽつりと呟き、俺たちはその階段へと踏み込んだ。
中へと入ったときだった。
明るい薄緑色の髪が目に飛び込んできた。
驚いたように見開かれた彼女は、見た目の美しさとは裏腹に、少し疲れたような表情をしていた。
そして、何より印象的なのは先の尖った耳だ。……エルフか。
「あなたは――」
「リナーリア!」
俺の近くにいたミリナが声をあげ、彼女が目的の人物だということが分かった。
……元々の迷宮と同じ場所にいて助かった。
持ってきた食料と飲み物を与えると、冒険者たちは涙を流しながら食べていった。
……食事とかを用意した際に使用した【アイテムボックス】に関しては、全員に秘密にしてくれ、とは伝えているがどこまで守ってくれることやら。
リナーリアが面倒を見ていた冒険者は全部で三人。全員女性で、リナーリアと同じエルフだ。
……この場に、女しかいないな。
その、三人の冒険者はイルンの美貌に一目惚れしたようであり、イルンを見る目はどこか熱を帯びている。
……まあ、そちらに関して俺は関与しないでおこう。
イルンはかなりモテるようで、ギルドの換金のときなど他の女性から声をかけられまくっているのはよく見ていたからな。
ミリナとフィアが、ギルドで起きたことや、今の状況などについて俺に関しての情報は伏せながらリナーリアに説明してくれている。
なので俺は、ここからの脱出について考える。
帰りも、今みたいなスタイルで戦闘していって大丈夫だろうか?
ここからは、ランクの劣る三人の冒険者も同行する。【鑑定眼】で見たところリナーリアは問題なさそうだが、三人のほうは心配だ。
チェンジスライムの中には液体の弾丸を飛ばしてくる奴もいた。
一応、ミリナとフィアが【ファイアウォール】や【バリア】を展開して守ってくれたが、守る範囲が増えるとそれだけ大変になるよな。
守るほうに意識が向くと、魔物を倒す速度も遅くなって……危険が増すよな。
ここに来るまでの間にレベルも25まで上がった。
ボーナスポイントは29も
……ここまでの道中、魔物との戦闘が多かったからかレベルは25まで上がっていた。
ボーナスポイントは29もあったので、スキルを取っておこうか。
少し速度を削り、【筋力強化】、【筋力強化+】、【速度強化++】、【エンチャント・火】まで取得しておいた。
……これで、エルフの冒険者たちも最低限身を守れるくらいにはなるだろうか?
ちょっとお試しで戦闘をしてもらってから、様子を確認したほうがいいかもしれないな。
自分のステータス画面とにらめっこしていると、リナーリアがこちらへとやってきた。
「あなたが、レン?」
「ああ。一応、魔石で少しだけ話したけど……初めましてだな」
「初めまして。色々と、話は聞いた。……本当に、ありがとう」
深く頭を下げてきた彼女に俺は首を横に振って返した。
「顔をあげてくれ。……それより、レヴィートが色々と言って悪かった。助けに来たのは、その謝罪だと思ってくれ」
「気にしないで。あなたには関係ないから」
「……そういってもらえるなら助かる。それで、脱出に向けて少し戦力を確認したい」
「分かった」
リナーリアが嬉しそうに微笑んでから、冒険者たちに声をかえる。
その様子を、ミリナは意外そうに見ていた。
「……リナーリアが男に笑ったの初めて見たわよ」
「男嫌いですからね。まあ、嫌いになった原因はレヴィートですけど」
……あいつロクなことしないな。
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