第29話
俺が声をかけたと同時、眼前に霧が集まっていき、スライムの姿となった。
……大きいな。見た目は液体で、特別な魔物という感じではない。
早速、【鑑定眼】で弱点を確認する。
風か。でも、【ウィークメーカー】で付与すれば――。
火と光が、弱点になった。
「よし、問題ない。【ウィークメーカー】で火と光の弱点が付与できた。魔法を頼む」
指示を出すと即座に火球と光球が撃ち込まれていく。
……連発だ。万が一にでも仕留めそこなったらまずいしな。
二人の魔法は凄まじく、煙のようなものがあがってチェンジスライムの姿は見えない。
だが、【感知力アップ】に頼って確認してみると、敵の気配はなくなっている。
「大丈夫そうだな」
「……そうだね。それに、一体くらいなら僕の出る幕もなさそうだ」
「この調子で進んでいこうって……二人ともどうしたんだ?」
ミリナとフィアはお互いに驚いている様子だ。
それから、お互いに顔を見合わせる。
「……ミリナさん。これ、魔法の威力滅茶苦茶上がってますよね?」
「……そうね。あたしも、もともと感じてはいたけど……今ので確信したわ。レンの支援魔法、かなりのものよ」
……そう言ってもらえるな良かった。
魔法自体が強化されているのは確かだが、複数のバフ、デバフを組み合わせているのも良い効果があるのかもしれない。
ゲームによっては、魔法防御力をめっちゃ下げるよりも、魔法防御力をちょっと下げ、属性耐性をちょっと下げる……というほうがダメージ量が上がることがある。
複数の項目を下げることで、計算される回数を増やしたほうがいいとか……もしかしたら、この世界もそうなのかもしれないな。
俺たちはCランク迷宮を突き進んでいく。
二、三階層と進んでいくとチェンジスライムの出現数も増えていく。
「イルン、右のがこっちに注目し始めた。頼む」
「了解」
「ミリナ。奥の奴が倒しきれてない……と、フィア。右の通路から別のスライムが近づいてきてるから魔法の準備を頼む」
「オッケー、出てきた瞬間吹っ飛ばすわね」
何より、誰も迷宮にいないせいで連戦が多い。
イルン曰く、突然変異が発生したあとの迷宮は活発化しているので魔物が増えるらしい。
……思っていたよりも、【感知力アップ】が活躍しているな。
「迷宮内の地図も駄目ねこれ。全然構造がかわってるわ」
渡されていた地図には、この迷宮が変異する前の地図もついていたのだが、まるで違うらしい。
それでも問題なく進めているのは、イルンのおかげだ。
……俺も、あまり意識していなかったのだが、【鑑定眼】のおかげで何となく分かるんだよな。
意識すると魔力の通り道、のようなものが見える。今のところ、それに従っていけば次の階層に行けている。
……まだ確信は持てていなかったので皆には伝えていないが、【鑑定眼】、かなり便利かも。
「っと。罠があるね。解除するから待ってて」
「了解。周囲の警戒は俺がしてるから、集中してくれ」
「ありがとね。いやぁ、もう一人盗賊系スキルを持っている人がいると気楽でいいね」
にこやかに答えるイルンに、俺は【器用強化】を使用する。罠解除のときだけ、【鑑定眼】を【器用強化】にしている。
他のスキルでもいいが、これがもっともラクだったのでそうしている。
罠はわりと進行方向のあちこちにある。一度解除すれば数日程度はなくなるらしいので、帰り道のことも考えて解除していっている。
【鑑定眼】、罠も全部見えるんだよな。
罠は足元にあり、魔法陣で見えるようになっている。そこに人間が踏むと、発動するらしい。
……人間じゃないと駄目らしい。魔物ではまったく反応しないらしく、どういう仕組みなのかは気になるところだ。
イルンがそちらに手を向け、罠解除を行う。
「……うん。やっぱりラクだね。もう大丈夫だよ」
解除はすぐに終わり、イルンが笑顔とともに立ち上がる。
俺は【鑑定眼】につけなおし、先ほどまで罠が合った場所を見ると、確かに消えていた。
「かなり順調ね。レンのおかげだわ」
「魔法パーティーの欠点がすべてレンさんのおかげでありませんからね」
二人の言葉に、俺は苦笑を返す。
「魔法パーティーの欠点って、魔法を使うまでに時間がかかることとか?」
「それと、魔力消費が激しいことですね。マナポーションを使ってしまうとお金がかかってしまいますので、魔法使いは強敵以外では出来る限り魔法を使わないようにするのが鉄則です」
「だけど、今はレンのおかげでそれらの欠点がすべて無視できてるのよね。これって滅茶苦茶凄いことなのよ?」
ミリナとフィアのべた褒めに、俺は少し恥ずかしくなってくる。
そこまで人に褒められる経験があるわけではなかったからな。
「そうなんだな……。でも、【並列魔法】や【詠唱時間短縮】なら、二人もスキル自体は解放されてるなら、誰でも取得すればいいんじゃないか?」
今はまだボーナスポイントを他に回しているから取得できていないようだが、それでもいずれはとれるだろう。
しかし、俺の疑問にフィアが苦笑する。
「誰でもはとれないんですよ。スキルというのは、人によって取得できるもの、できないものがあるんです」
「……そういえば、そうだったな」
例えば、フィアはどうやっても俺のように支援魔法使いになることはできないんだよな。
人によって解放されているスキルが違うため、最初からある程度の道筋が決まってしまっているんだよな。
俺の口ぶりからフィアは何かに気付いたようで小首を傾げる。
「……もしかして、レンさんはすべてのスキルが解放されているんですか?」
「前提条件のスキルさえとれれば、すべてのスキルが取得できるな」
「……」
フィアはもう何度目かという驚いた顔でこちらを見てくる。ミリナもイルンも頬を引きつらせている。
……こうなってくると、追放者のステータスが成長しないというのはむしろそれでバランスを取っているんじゃないかと思えてくるな。
俺の場合、それも取得したスキルで無視しているんだけど。
「つまり、人によっては【並列魔法】とかのスキルは取れないんだな」
「はい。また、取得できる場合でもランクに制限がかかっていることがありますよ。Sランクまで上げられない、みたいな感じですね」
「……それはどうやっても無理なのか?」
「レベルが上がってから解放されるようになった人もいるというのは聞きましたね。他にも、これまで取得できなかったスキルも魔物と戦闘し続けていたら取得できるようになった、とかもあります。なので、今見えているものがすべてではありませんが」
人によってはスキルの取得のために条件があるということか。
俺ももしかしたら、今後そういうスキルが出てくるのかもしれない。
「なら、俺が【並列魔法強化】とかしているのも、わりと驚かれることなのか?」
「そうですね。レンさんがいれば、それだけで今みたいなパーティーが完成しますからね……。何より、一番の強みは……魔力の消費を気にしないことですね」
「【魔力自然回復量アップ】はでも、皆わりと持ってるんじゃないか?」
なんか初期のほうに取れるようなスキルだった。
【並列魔法】や【詠唱時間短縮】がそれなりに珍しいスキルというのは納得できるが、【魔力自然回復量アップ】は初歩のスキルだと思っていたのだが。
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