第28話




 調整が終わったところで、ミリナたちが戻ってくる。


「買ってきたわ。大量にあるけど、これ全部持てるのよね?」

「ああ、大丈夫だ」


 ミリナたちから荷物を受け取り、【アイテムボックス】にしまっていく。

 このくらい、全然問題ないな。今のDランクでも、容量には全く困らない。

 ……ただ、迷宮の突然変異を聞いた以上、俺としても常に数日分の食糧などを備えておきたいという気持ちはあったが、今は関係ないな。


 すべて入れ終わると、興味深そうにミリナが俺を見てくる。


「それ、すっごい便利ね。冒険者やってると荷物とか持ち歩けないから困っちゃうのよね。おしゃれな服とか買っても邪魔になっちゃうし」

「冒険者だと、拠点も変わるだろうし、あんまり荷物持っててもしょうがないよな」

「そうなのよ。だから、ある程度固まったパーティーとかって一軒家借りてそこを拠点にすることもあるのよね。こっちは大丈夫だけど、レンは準備終わったの?」


 拠点かぁ。

 親しい仲間たちともにそういう生活を送るというのも楽しそうではあるな。


「準備は問題ない。出発しよう」

「ちょっと待ってね。パーティー作らないと万が一があるから、一度パーティーを作り直して……レンがリーダーで作ってちょうだい」

「分かった」


 ……どうやって作るのかよくわからんが、ステータス画面を適当に弄っていたらうまくいった。

 パーティー申請は近くにいる人に出せるようで、ミリナ、イルン、フィアに出しておいた。


 これで、本当に準備は完了だ。


「よし行くか」

「レン、そっちじゃないわ。それに地図さかさまよ!」

「……地図は苦手だ。パス」

「もう、しまらないわね。こっちよ」


 ミリナに地図を渡し、俺たちは迷宮へと向かっていった。




 外はすっかり暗くなったが、フィアが小さな光を生み出してくれた。

 それが周囲を照らしてくれているので、視界は問題ない。

 俺たちは魔物の奇襲に警戒しながら、迷宮へと歩いていく。


「迷宮のランクってどうやって図るんだ?」

「ギルドとかに測定器があるのよ。それで魔力量を調べてランクを決めてるわ。たぶん、リーナリアから連絡もらってギルド職員が調査には来たんでしょうね。出現する魔物の情報も書いてあるわよ」


 地図の右上に、簡単に迷宮の情報が書かれている。

 リーナリアたちは現在階段にて救助を待っている。ただし、突然変異してしまったため階層は不明。可能性としては、十階層から十一階層に繋がる階段……だそうだ。


 リーナリアたちはもともと十一階層の攻略をしていたらしいので、十階層から十一階層に繋がる階段にいるかも、という予測だったらしいが、突然変異によって階層自体が入れ替わることもあるため不明、ということらしい。


 なので、該当する場所にいるかもしれないし、いないかもしれない。

 出現する魔物は、チェンジスライムか。


「チェンジスライム……厄介な魔物ですね」


 魔物の名前を見たフィアが眉間を寄せる。


「そうなのか?」

「ええ……チェンジスライムは個体によって弱点属性が違うんです。それに最悪なのが、弱点属性以外の魔法を吸収してしまうんですよ」

「……そうだね。ただ、動きはそこまで速くないから、最悪逃げてしまってもいいかもしれないね」

「でも、体大きいし、道を塞がれたら最悪よ? 挟み撃ちになっちゃうかもしれないわ」

「そうだねぇ……」


 イルンたちの言葉に、俺は考える。

 ……弱点属性か。これまでの魔物たちには弱点という弱点はなかった。

 ただ、【ウィークメーカー】を発動すると、弱点属性の部分に該当する属性が追加されていた。

 だとしたら――俺にとっては特に苦戦する相手ではないかもしれない。


 【鑑定眼】について話しておこうか?

 今日はべらべらと情報を伝えてしまっているが……緊急事態だ。

 皆の士気を高めるために、一応リーダーとして情報を伝えておこう。


「皆って【鑑定眼】のスキルは知っているか?」

「【鑑定眼】? しらないわね。【鑑定】じゃなくて?」


 どうやらこのスキルも追放者限定の特別なもののようだ。

 あまり【鑑定】について詳しくないが、恐らく似たようなスキルなのではないだろうか?


「【鑑定眼】、だな。俺が持っているスキルで……他人のステータスとかを見られるんだもちろん、魔物もな」

「え? 魔物も!? ステータスって、魔物も存在するの!?」

「正確に言うと、魔物に関しては人間みたいなステータスは見れないな。ただ、今かかっているデバフや状態異常を見ることができるんだ」

「それは便利ね。ならチェンジスライムにもなんとか……なりそう?」

「大丈夫だと思う。俺は、相手に弱点属性をつけるスキルも持ってるからな。それで無理やり弱点を付与できるはずだ」


 俺がそういうと、皆が唖然とこちらを見てくる。

 驚いた様子ながら、問いかけてきたのはフィアだ。


「……弱点属性を付与するって、確かなんたらメーカーという名前でしたっけ?」

「【ウィークメーカー】だな。一応、火と光属性の弱点をつけるようにしてるから、何とかなると思う」


 チェンジスライムの利点を、完全に殺せるはずだ。

 ただ、もしも【ウィークメーカー】を突破するようなスキルがあったらどうしようもないが。

 今のところ、デバフを素早く解除されてしまうことはあったが、完全無効というのはない。

 たぶん、大丈夫のはずだ。


 そうこう話をしていると、目的の迷宮に到着した。


「よし、中に入ろうか」


 俺が声をかけると皆も迷宮の入り口を見ながらうなずいた。

 俺とイルンが並ぶようにして階段へと向かい、俺はイルンに声をかける。


「一応、俺も【感知力アップ】のスキルは持ってる。イルンは自分の仕事に集中してくれ」

「了解」


 今回はレヴィートたちがいないので、イルンが先導する。

 俺が今回もっとも気を付けるべきは、後衛二人を守ること。

 なので、周囲を警戒しつつ、万が一のときのためにすぐにステータスやスキルを変更できるようにはしておいた。


 階段を降りると、遺跡のような空間へと出た。

 ……ただ、これまでよりもかなり大きな迷宮だ。古城にでも来たかのような感覚だ。

 中はあまり明るくなく、フィアが光魔法を展開して明かりを作ってくれた。


「……レンさん。もしかして、【並列魔法】のような支援魔法をつかっていますか?」

「あー、そうだったな。イルンには【速度強化】と【速度強化+】。ミリナとフィアには、かなり色々使っているから詳細は省くけど……特にいつもと違うのは【並列魔法強化】と【詠唱時間短縮強化】だな」

「……確かに、凄いわねこれ。即魔法放てるし、複数の魔法を展開できるわね」

「はい。ですので、明かりの確保で私が手一杯になることもないようです……おまけに、魔力もすぐ回復しますので……本当に連発できますねこれなら」


 ミリナとフィアがいくらか魔法を撃ってみて、感覚を確かめている。

 そんなことをしていると、チェンジスライムが出現しそうになっていることが分かった。


「来るぞ」


―――――――――――

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