第25話





「あんたたち何言ってんのよ!? 最低よ!?」


 ミリナがそう叫ぶが、レヴィートは面倒そうに睨むだけだ。


『……』


 沈黙が、返ってきた。リーナリアの傍に若い冒険者たちもいるのだろう。

 何やらざわついている様子が魔石越しではあるが伝わってくる。

 ……向こうでも、ミリナのように怒った声が聞こえているあたり、同じような反応をしているのかもしれない。


『……分かった。なんでもする。だから、お願い』

「よーしよし。それならいいぞ。助けに行ってやるぜ」


 調子よく下卑た笑みを浮かべるレヴィートに、俺はため息をついて近づいた。


「レヴィート」

「あ?」


 俺が声をかけると、通話していた彼はこちらへ振り返る。

 その瞬間を狙い、俺は顔面に拳を叩きこんだ。

 派手に吹き飛んだレヴィートは、掲示板近くにあったテーブルや椅子を巻き込みながら倒れる。

 悲鳴が上がる。

 俺はレヴィートがこぼした魔石を手に取り、代わりに声をかける。


「……依頼は分かった。レヴィートが言っていたことは、別にやらなくていいから。これから俺たちで救助に向かう」

『……え? えと? どういうこと? あなたは……?』

「新しくパーティーに入ったレンだ。そういうわけで、もう少しだけ待っていてくれ」

『う、うん……分かった』

「てめぇ! 勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!」


 激昂したレヴィートがつかみかかってくるが、俺はその拳をかわしながら代わりに殴り飛ばした。

 殴る前に、適当に数値を弄り、速度を多めに割り振っておいた。


 【筋力強化】、【速度強化】系以外はほとんどはずし、盛れるだけステータスを持り【筋力アップ】や【速度アップ】もとれば、レヴィート相手なら十分だな。

 デバフの影響もあるようで、かなり動きも遅い。……それに、今は俺の支援魔法も受けていない状況だし、いつもの感覚からもズレているはずだ。


「てめぇ、ぶっ殺されてぇのか!?」


 そう言った時、背後からゴーグルが殴り掛かってくるが、そこにイルンが短剣を向ける。


「……さすがに、さっきのはいいすぎだよ。レンがやらなかったら、僕が怒っていたよ。それは……僕たちだけじゃないはずだよ」


 イルンがそう言ってちらと周囲を見る。

 レヴィートとゴーグルの会話を聞いていた冒険者たちが冷めた目を向けている。

 彼らもそれなりに粗暴なほうであるがドン引きしているようだ。


「……せめて、名誉を挽回するためにも今回の依頼を受け――」


 イルンがそう言ったところで、レヴィートは声を荒らげる。


「オレは受けねぇぞ! 追放者如きにこんな恥までかかされてんだ! 知らねぇからな! 死んじまえよ!」

「……はっ、そうだな。Cランクのアタッカーとディフェンダーがいなくて攻略できるのかね? じゃあな」

「泣きついてももう知らねぇからな!」


 レヴィートとゴーグルはそう言い残し、逃げるようにギルドを去っていった。

 ……元々、彼らには期待していない。

 俺は小さく息を吐いてから、職員に声をかける。


「職員さん、とりあえず迷宮の場所を教えてもらってもいいですか? レヴィートたちは俺たちのほうで説得しますので」

「は、はい……えーと――」


 詳しい場所を聞いた俺たちは、ギルドマスターとの話し合いをしている時間はなかったので、すぐにギルドを出た。





 ギルドを出たところで、渡された地図をじっと見る。

 ……分からん。

 時間は夕暮れ時。恐らく、迷宮に挑戦するときは夜になっていることだろう。

 そんなことを考えていると、


「ちょっとレン。これからどうするのよ?」


 ミリナが心配そうにこちらを見てくる。


「迷宮に救助に向かう予定だけど……」

「……ちょっと待って。レヴィートたちを説得に行くわけじゃないの?」

「説得していたら日付も変わるんじゃないか? それに、よほどの条件をつけなきゃついてこないんじゃないか?」

「……かもしれないけど。じゃあどうするのよ? あたしたちだけだと前衛がいなくなっちゃうわ」

「……ミリナたちも来てくれるのか?」

「当たり前じゃない。リーナリアとは一応知り合いなんだしね」

「そうなのか?」

「ええ。レヴィートが告白して無理やり迫ってからパーティー外れたのよ。それからは、新人とかの面倒を見ていることが多いって聞いたわね」

「……なるほどな」


 あまり聞きたくない理由だったな。

 ていうか、一度告白して失敗した相手にあんな迫り方をしたのかレヴィート……。

 夜の店が好きなレヴィートがあんな言い方をしたとなると、リーナリアはそれなりに美人なのかもしれない、とか考えているとミリナが腕を組んだ。


「そんなことはいいのよ。あんたどういう計画で今回の依頼受けたの? 無責任な言葉は救助を待つ人にとって一番辛いものよ?」

「……俺の予定だと、【隠密】とかの気配を消すスキルを持ってるからそれで俺が一人で合流しようと思ってたんだ。それから、救助を待つ人たちとパーティーを組んで【ダンジョンワープ】を使えば無事に帰還できると思ってな」

「それは、なかなかいい作戦だけど……あんた【ダンジョンワープ】のスキル効果知らないでしょ?」

「一度行ったことのある階層の入口に移動できるんじゃないか?」

「ええ。行ったことがある人はできるわ」

「……つまり、パーティーを組んでもダメなのか?」

「ええそうよ。自分で一度行く必要があるわ」


 ……となると、現状【ダンジョンワープ】を使えないリーナリアたちでは、難しいということか。




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