第26話


「なら、計画変更だな……Cランク迷宮を攻略できる戦力を用意する必要があるよな」

「ええ、あるわね」

「それなんだが、俺たちだけでどうにかならないか?」

「は? アタッカーはイルンだけだし、ディフェンダーもいないわよ?」


 完全に皆が困惑している。そりゃあ、そうだよな。


「そこは、イルンに魔物たちを引き付けてもらって、さっさと魔物たちを倒して進むっていうのは……どうだ?」


 イルンがディフェンダーとして長時間耐久することは難しくても、戦闘時間を極力短くすればある程度は役割をこなしてくれるのではないだろうか?

 それだけ、俺はイルンに対して信頼していた。


「……いや、難しいんじゃない? いくらCランク級の迷宮だとしても、そもそもあたしたち結構ぎりぎりでの攻略だったじゃない」


 ……いや、だができるのでは、という考えはある。

 イルンが魔物たちを引きつけられれば、俺は前衛に合わせた支援魔法を使う必要はなくなる。

 後衛に対してのみ強化する支援魔法スキルを取得していけば、火力は今より上がるはずだ。

 ただ、その事情を説明するとなると、俺のステータスに関しての秘密も伝える必要がある。


 まあ、状況も状況だ。

 ミリナたちなら別に吹聴して回るようなこともないし、別にいいか。


「ミリナ、フィア。ちょっと内緒にしてほしいことがあるんだけど」

「なによ?」

「なんでしょうか?」


 それから、俺はミリナ、フィア、イルンたちとともに近くの路地へと入る。

 ……イルンはもう事情を知っているため、なんとなく察したようだ。

 人目がないことを確認してから、自分の秘密について話していく。


「……俺は【ボーナスポイント再割り振り】っていうスキルを持っているんだ」

「【ボーナスポイント再割り振り】? フィア聞いた事ある?」


 ミリナはぽかんとした様子で小首をかしげていて、フィアも首を横に振った。


「いえ、聞いた事ありませんね。ただ、追放者の方々は特殊なスキルを持っていることがある、というのは聞いた事ありますのでそれではないでしょうか?」

「たぶん、フィアの言っていることで正解だと思う。俺の持っている【ボーナスポイント再割り振り】は、一度割り振ったボーナスポイントを戻して自由に割り振れるっていうスキルなんだ」

「……え? つまり、極端なこと言ったら、魔法使い系のスキルとったあと、戦士系のスキルに振りなおしたりできるってこと?」

「そうだ」


 俺が頷くと、ミリナとフィアは驚いたように目を見開いた。

 ……正しく使えれば、強力なスキルだ。

 それを理解したからこその二人の反応だろう。


「……それは、凄すぎますね。多くの冒険者たちが自分のスキルの振り方に迷ってポイントをあえて残している方もいるくらいですのに」

「……そうね。急に成長期が終わって、ステータスが伸びなくなったときの保険のために残しておくものなのよね」


 二人がぶつぶつと話している内容には俺の知らないものもあり、ちょっと質問。


「成長期、っていう概念もあるんだな」

「身体の成長期とちょっと違うんだけどね。レベルによってステータスの成長ってちょっと違うのよ……でも、それならレンはやっぱり凄いのよね」

「凄いかどうかは置いておくとして。今俺は自分のステータスにまったくポイントを割かずにスキルを取りまくっているんだ。仲間が戦えるようになれば、まあ別に問題ないしな。それで、さっきレヴィートを殴ったときは適当に筋力と速度を上げてたってわけだ」

「さっきのはスカっとしたわよ」


 ミリナとフィアがぐっと親指を立てる。

 二人とも、色々と思うことはあったようでとても笑顔である。

 それが良いのか悪いのかは疑問だが……まあ、怒られなかったのでよしとしよう。


「……まあ、さすがに感情に任せすぎたとは思ってる。それで、ここから考えているのは、今はレヴィートとゴーグルを支援するために【筋力強化】や【体力強化】とかをとっているんだけど、それらを外して後衛を支援しまくる方向にしたらどうかと思ってな」

「……なるほどね。イルンに少しだけ魔物を引き付けてもらって、その隙にあたしとフィアで魔物を倒して進むってことね?」

「そういうわけだ。Cランク迷宮の魔物が相手なら、ミリナとフィアならすぐに倒せると思ってな」


 ……同じCランク迷宮であるゴブリンエリートたちとの戦闘を見ていた俺の感想だ。

 俺の言葉に、ミリナとフィアも納得した様子で頷く。


「確かに……そうね。あたしの魔法なら火力的に問題なさそうだったし、さらに強化されるっていうなら殲滅できると思うわ」

「私もですね。最近回復魔法ばかりで疲れていましたし、攻撃できるならぜひとも参加したいですね」


 ミリナはともかく、フィアはかなり乗り気だった。

 まあ、フィアはいつも回復ばかりさせられていることを文句言っていたからな。

 俺も後衛にいたので、フィアの愚痴はよく聞こえてきていたし。


「でも、魔法はチャージ時間があるわ。あたしも早いところ【詠唱時間短縮】のスキルを取ろうと思ってたんだけど、レヴィートがどんどん上の迷宮目指すせいで火力優先にしていて……取れてないのよ。魔力の関係もあったし、いくら早く撃てても、魔力消費も激しくなってお金かかるし……」

「私もそうなんですよね……確かにレンさんの支援魔法があれば威力は強化されると思いますが、結局スピーディーな戦闘を行うのは難しいですよ?」

「そうなんだな。それなら、支援魔法には【並列魔法強化】や【詠唱時間短縮強化】もあるから問題ないと思う。あとは、イルンにかなりの負担をかけてしまうけど……」


 問題はここだ。

 今回、前衛はイルン一人になってしまうので、そこだけが心配だ。

 ……やろうと思えば、俺もできないことはないと思うが……今の俺のステータスだと精々レヴィートくらいの戦力にしかならないだろう。

 それに、剣とかの武器も持ってないわけで、そこを揃えるところから始める必要がある。


 だったら、今すでに火力的にはレヴィートと同等かそれ以上のミリナ、フィアたちを支援する方向のほうがより最大ダメージを叩きだせるはずだ。


「ああ、大丈夫だよ僕は。むしろ、前で一人で動ける分には気がラクなくらいだよ」


 美しい微笑とともに、こちらの気を楽にさせてくれる言葉を言ってくれた。

 イルンに感謝しつつ……考える。

 まだ俺の想像でしかないが、うまくいくとは思っている。

 もちろん、ディフェンダーがいないため、かなり危険であることは間違いない。

 だが……やるしかないな。



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