第23話


 俺の近くにいたイルンが、ぼそりと声をかけてくる。


「この迷宮に出現するのはネオワーウルフだね。動きが速いから狙われないように気を付けて」

「……なるほどな」

「まあ、後衛のあたしたちは大丈夫よ。前衛が崩れなければね」


 ミリナが煽るように言うと、ゴーグルが苛立ったように口を動かす。


「ふん、何言ってんだよ。そこの支援魔法使いがちゃんとすれば、オレはやられねぇよ」

「支援魔法ありきで考えてると、足元すくわれるんじゃないの? 今までCランク迷宮の魔物一体くらいしか押さえてなかったんだし」

「うるせぇな。上位クランやパーティーにはもっと優秀な支援魔法使いがいるんだから条件は変わらねぇだろ。むしろ、追放者の支援魔法如きでここまで耐えてやってるオレに感謝しやがれ」

「ほらほらゴーグル。魔物が来たよ。押さえられるところ、見せてくれ」


 ゴーグルが苛立ったとき、魔物が出現した。

 真っ先に反応したイルンが、ゴーグルに呼びかけると、彼はすぐに盾と剣を構える。

 すでに俺も【感知力アップ】のおかげで気づいていたので、全員にバフ魔法はかけ終えている。


「はん、任せろ!」


 現れたネオワーウルフは二体か。

 一階層だとこのくらいだよな。俺はすぐにデバフも入れ終えた。

 ……もう俺にできることはない。


 ゴーグルが【挑発】を使用すると、ネオワーウルフたちはゴーグルへととびかかる。

 そして、その鍛え抜かれた体を活かした拳を振りぬいてきた。


「……ッ!?」


 意気揚々と盾で受け止めたゴーグルだったが、盾ごと大きく弾かれた。

 それでも、倒れずにすぐに体勢を立て直し、二体目のネオワーウルフの攻撃に対応する。

 ただ、余裕はまるでない。

 先ほどまで軽口をたたいていたゴーグルの表情にも、焦りの色が見え始める。

 ネオワーウルフのパワーは、エリートハイゴブリンくらいはあるのだろうか?


 多少攻撃を体に受けながらも何とかこらえている。

 注目は十分に集まった。

 背後から奇襲を仕掛けたのは、イルンだ。彼女が振りぬいた短剣は、見事にネオワーウルフの首を掠めた。

 ……しかし、刃は首を切断することはない。筋肉と、硬質化された皮膚に攻撃は阻まれている。


 もともとイルンは手数で攻撃をするタイプだ。

 【隠密】を駆使しながら、少しずつ削っていく。

 途中、毒の状態異常を与えるスキルも使用したようで、ネオワーウルフは毒状態になっている。


 ただ、ネオワーウルフの体からHPが削れる代わりとばかりに霧が漏れていくが深手とまではいかないな。

 ……【武器強化】も使用しているのだが、Bランククラスの魔物となると苦戦しそうだな。

 そして、レヴィートは……ネオワーウルフの攻撃についていけていない。

 たまに、背後から攻撃を仕掛けるのだが攻撃をかわされ、そのまま注目を集めそうになって慌ててゴーグルが【挑発】を使って引き付けるという感じだ。


 ……うーん、もっとゴーグルのステータスを強化できるようなスキルを取得したほうがいいか?

 相変わらず、【痛覚遮断】とフィアの回復魔法で無理やり回復しているだけだからな。


 俺の想像していたディフェンダーは、もっとどっしりとしているのだが、彼は殴られても殴られても根性で無理やり起き上がって耐えているという感じだ。

 それはそれで結構凄いのだが、無茶すぎる。


 まあでも、敵の攻撃に対してしっかりと反応して盾を構えることだけはできているので、最低限はクリアしている。


 ゴーグルのステータスを強化する支援魔法はあとで考えるとして、しかしこちらの火力自体は強化されている。


 レヴィートの剣にはすでに【装備強化】と【エンチャント・火】と【弱点特効強化】、ネオワーウルフには【ウィークメーカー・火】が付与されている。


 その一撃が当たれば多少は削れるはずなんだけどな。

 そう期待していると、レヴィートの攻撃は……スカッ!

 かわされた挙句、ネオワーウルフに蹴り飛ばされ、慌てて剣の腹で受け止めたが吹き飛ばされる。


「ちっ、面倒だなおい!」

「レヴィート。相手の動きの先を読むんだ。そうしないと、当たらないよ」

「くそっ、支援魔法使いがちゃんとしてればよぉ!」


 レヴィートが苛立ったように声を荒らげ、こちらを見てくる。

 ……というと、【速度強化】か?

 一応、【速度強化+】もあるのだが……取得したほうがいいか?


 運や【ドロップアップ】を削れば取得自体はできると思うが……俺が見るにCランク迷宮でもう少しレベル上げをしたほうがいいと思うんだけど。


 そう考えていると、ミリナの魔法が飛んだ。

 見事にネオワーウルフの体を捉え、吹き飛ばす。

 ネオワーウルフはよろよろとではあるが立ち上がるが、その瞬間をイルンが見逃さず、首へと短剣を突き刺した。


 ネオワーウルフはまだ死なない。目をぎろりとイルンへ向け、剛腕を振り下ろす。

 だが、そこでイルンに注目したことと、魔法とイルンのダメージで動きが鈍っていたネオワーウルフはレヴィートの背後からの一閃がようやく当たった。

 レヴィートは、腐ってもパーティーで一番の火力だ。ネオワーウルフが倒れてくれた。


 あそこまでやって一体か。

 もう少しレベルアップしないと、まだうちのパーティーだと適性レベルじゃなさそうだな。


 それでも、一体倒せばだいぶ楽になる。多少時間はかかったが二体を仕留め、俺たちは一息をつこうとした。


「休む時間はなさそうだね。ほら、出現してるネオワーウルフが来たよ」

「うげ!? マジかよっ」

「まあ、この階層に他の冒険者パーティーはいなそうだしね。Cランク迷宮の九階層とかもこんな感じだったじゃないか」


 高ランク迷宮になると、そもそも挑戦者が少ないんだよな。

 だから、連戦になりやすい。


「……ちっ、とりあえず数減らさないと余裕を持って狩りもできそうにねぇな。おいっ、さっさと準備しろ! やるぞ!」


 今度は一体か。

 Cランク迷宮の一階層だと、まだ多少冒険者もいたが、このBランク迷宮はゼロだ。

 ……そうなると、すでに出現している魔物たちが戦闘音を聞いて集まってくる可能性があるんだな。


 Eランク迷宮に一人で潜ったときもこんなことはなかった。低階層の迷宮であればあるほど、それだけ冒険者が増えるのだから当然か。

 一体のネオワーウルフ相手なら、そこまで苦戦することはない。


 ひとまず、戦闘音につられてやってくるネオワーウルフたちの相手をしていき、ようやく余裕が出てきたところでレヴィートとゴーグルが愚痴をもらした。


「おい、追放者。おまえちゃんと支援魔法使ってただろうな?」

「使ってはいたけど、結構厳しそうだったな……」

「てめぇは見てるだけでラクそうだな! ……まったく、早いところ本職の支援魔法使いを見つかんねぇかなぁ」

「ほんとな。そうしたら、オレたちもBランク迷宮くらい余裕で攻略できるよな」


 レヴィートとゴーグルが苛立ったようにそう言っている。

 ……もう少しレベルが上がれば、俺ももう一つ上のランクの支援魔法を取得していけるんだけどなぁ。


 それか、支援する範囲を決めるというのも一つの手かもな。

 例えば、後衛の火力のみを優先するとか。

 さっきの見た限り、ミリナの魔法がもっとも有効打になりそうだったし、そっちの路線もありだよな。


 ただ、レヴィートたちへのバフをやめてしまうと、それはそれで文句を言われそうだ。


 支援魔法使いは難しいな……。






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