第22話



 昨日は色々とあったが、あれからイルンとの関係も特別何か変わるというわけではない。

 いや俺としては精神的に色々と意識してしまうようになってはしまったが、特別やり取り的には変わっていない。

 今日からBランク迷宮に挑戦する俺たちは、ひとまず冒険者ギルドへと足を運んでいた。


 いつも通りの人込みだ、と思っていたが……どうにもギルド職員たちがバタバタしている様子だ。

 俺は少し気になったが、レヴィートは特に気にした様子はなく、すたすたと受付へと向かった。


「パーティー募集を出したいんだけど、ここで良かったよな?」

「はい、構いませんが」

「そんじゃ、支援魔法使いの募集を出しておいてくれ」

「かしこまりました……。ただ、支援魔法使いは本当に少ないので、募集しても必ずしも希望に合致する人がくるかは分かりませんよ?」

「ああ、そりゃ分かってるよ。多少栄えてるっていっても王都からこんだけ離れた田舎じゃ、たかが知れてるしな」


 ……ここって田舎のほうだったのか。

 それなりに高い建物はあるし、人の行き来も盛んに行われていたのでそれなりの都市であると思っていた。

 レヴィートの言い方にギルド職員は苦笑を浮かべつつ、パーティー募集の紙をこちらに差し出してきた。


 定型の文章があるようで、それに必要事項を記入するだけだ。

 自分たちのパーティーの構成メンバーの名前、ランクなどなど。


 ……構成メンバーに俺がいないのは、支援魔法使いと入れ替わり、だからだろう。

 レヴィートはスラスラと文字を書いていき、ギルド職員へと突き出す。


「これで張り出しておいてくれ」

「……かしこまりました。ですが、Cランク以上の支援魔法使いとなるとほとんどがクランや国の機関に所属しています。かなり、可能性が低いことは承知してください」


 本職の支援魔法使いは、少なくともそこら辺にはいないようだ。このギルドに来たことがある人は、俺含めてもあまり多くはないそうだ。

 そして、そのほとんどが、すべてパーティーかクランに所属していて、誰も手が出せない状況だ。


「分かってる分かってる。来たらいいくらいだ。そのうち、うちのパーティーは一人除いて優秀だからな。すぐBランクに上がる予定だし、そうなったらまた事情も変わってくるだろ?」

「……Bランクに上がれば……確かにそうですね。かしこまりました。こちらで確認しますね」


 すっとギルド職員が頭を下げ、レヴィートの用事は終わった。

 ギルドを出たところで、ミリナがジトリとレヴィートの背中を睨みつけていた。

 俺の視線に気づいたミリナがぼそりと話しだした。


「……十分今でも通用していると思うけど。そんなに追放者ってだけで追い出したいのかしらね?」

「まあ、そういう約束だしな。俺としても、想定より早くレベルアップできてるから文句はないよ」


 たぶん、ソロでやっていたら今頃ようやくFランクに上がるくらいだったと思う。

 そんなことを話していると、フィアが口を開いた。


「レヴィートさんは、追放者を嫌っているせいで本職の支援魔法使いに対する幻想が大きくなりすぎているのだと思いますね」

「どういうことよ?」

「私、バイトで聖女やってますよね?」

「バイトでやるものじゃないけれどね」


 イルンが苦笑しながらツッコミを入れると、フィアが頬を膨らました。


「だって、聖女様はお酒禁止、ギャンブル禁止と言われては私も本職としては厳しいです」

「理由がクズよ……まったく、それで?」

「たまーにですが教会所属の支援魔法使いの方と仕事をするときがありますが……はっきりいって、レンさんのほうが上だと思いますね」

「え? それ、ほんとなの?」


 驚いたようにミリナがフィアを見る。

 ……それは俺も驚いてしまう。


「はい、そうですね」

「だったら、それレヴィートたちに伝えたら分かってくれるかも?」


 早速その話をしようとしたミリナを、フィアが後ろから抱きつくように捕まえる。


「レヴィートさんって自分で体験してみないと分からないと思いますよ。そういうわけで、たぶん口喧嘩で終わりなだけですよ」

「……うっ、確かにそうね」

「それに――」


 そこでフィアが背後からミリナの耳元でごそごそと何かを囁く。

 それを聞いたミリナが目を見開き、にやりと笑った。


「確かに、それはいい案ね」

「でしょう? そういうわけで、別にアレは放置でいいと思います」


 フィアが笑顔とともに、レヴィートをアレ、と言った。

 聖女、というのがどういうものかは分からないが確かにフィアは一般的な聖女像からはかけ離れてしまっているのかもしれない。

 俺としては、自分の好きなことに打ち込んでいる彼女の生き方はいいなと思っていた。




 色々とギルドではあったが、俺たちはBランク迷宮の一階層に到着した。

 今回の迷宮は草原のような造りとなっている。


 不思議な感覚だ。さっきまで街の外を歩いていたのに、また外とそう変わらないな。木々や岩は本物だ。

 誰かが作ったのか、けもの道までもある。ここがどこかの町へと繋がり街道だと言われたら、俺は信じる自信があるな。


 風も、吹いているのか。

 迷宮の天井には太陽と雲もある。……雲は、風に合わせてちゃんと動いている。

 ……あれは、絵が描いてあるとかじゃないんだな。


 迷宮は神様が作ってくれた、人間への贈り物だとか、はたまた邪神が作った人間を排除するためのものだとか色々と言われている。

 ただ、結局のところは分からない、そうだ。


 俺も、よくわからない。俺をこの世界に送ってくれた神様も、何も言っていなかったし。

 まあでも、迷宮は町や国の発展には必須のものらしい。今では危険を承知で迷宮近くに町が作られるほどだしな。


 迷宮の素材があればいくらでも生活できるんだし、分からないでもない。



―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る