第20話

 いつものように夕食を食べ、いつものように部屋へと戻ったところで――


「レン」


 イルンに呼びかけられた。

 彼の俺を見る視線はいつもと変わらない。

 いや、違う。

 変わらないように振舞おうとしている。

 それを理解した次の瞬間だった。


 イルンが俺の間合いへと踏み込んできていた。そして、俺の首元に彼の短剣がつきつけられる。

 突き飛ばされるようにして俺は背後のベッドへと倒れこみ、イルンが馬乗りになる。


「ど、どうしたんだ?」


 俺が困惑したままイルンに問いかける。

 イルンの瞳はまっすぐにこちらを見据えている。

 その表情からは感情を読み取ることができない。

 イルンが口を開く。


「キミは……何者なんだ?」

「……どういうことだ?」


 イルンの言葉は淡々としていたが、困惑しているようにも見える。しかし、今の俺には彼が何を言っているのか分からない。


「……今日。君が迷宮内で狩りをしているのを目撃してね」

「……え?」

「正確に言うと、君がEランク迷宮に入るところを、ね。それからは、悪いが追跡させてもらったよ。……君が魔法を使って戦闘をしているところをね。……どういうことだ? 支援魔法使いだっただろう?」


 ……マジか。まったく気づかなかった。

 そこは、盗賊としての年季の違いなのかもしれない。

 そして、イルンが俺に対して警戒をして、今のような行動に出た、と。

 適当に誤魔化してしまうと、せっかくの関係が壊れるだろう。


「……スキルを取得したんだ。いずれはこのパーティーを追い出されるだろ? そのときのために困らないように、訓練をしていたんだ」

「だとしても……Eランク迷宮で問題なく、それもソロで戦闘をできていたのはおかしいよ。……スキルも複数を色々と使用していたじゃないか。君たち追放者は……レベルアップでステータスが成長しない。ボーナスポイントがあるといっても、成長は微々たるもので……とてもじゃないがEランク迷宮をソロで攻略できるほどのステータスではなかったはずだよ」

「……それは――」


 濁しながらも俺は事実を伝えたが、イルンの分析は正しい。

 この世界の人たちと同じように成長していれば、俺は恐らくイルンのいう通りまともに戦うことはできなかっただろう。

 だが、俺には特別なスキルがある。


 それを伝えるかどうか、迷った。

 だが……イルンとは今後も同室になるだろう。……話しても、いいのかもしれない。 俺のスキルに関しては特異性が凄まじい。

 ……もう少し、力をつけていないと命の危険もあるかもと思っていたのだが。


 相手は、イルンだ。

 できれば、ここで今の関係を壊したくはない。

 そう思える友人であり、仲間だと思っていた。

 だから俺は、まだ……少し迷いはあったが、すべて伝えてしまったほうがいいと思った。


「俺はこの世界へと追放される前に、いくつかのスキルを取得できる権利をもらったんだ」

「スキルを取得できる権利?」

「ああ。その一つが【ボーナスポイント獲得量アップ】っていうスキルなんだ」

「……【ボーナスポイント獲得量アップ】? そんなスキル、聞いたことないね」

「それの効果は、レベルアップでもらえるボーナスポイントを増やすっていうものなんだ。今の俺は一回のレベルアップで10くらいのボーナスポイントが手に入れられるんでな。だから、色々とスキルが取得できるんだ」

「……そ、そんなに……で、でもだとしてもやっぱりおかしいけど……」

「……もらったスキルはそれだけじゃないんだ。【ボーナスポイント再割り振り】。このスキルで、獲得したボーナスポイントを自由に振りなおすことができるんだ。……だから、スキルを取得したあと、また別の取得を取り直したりもできる。それで、今回は魔法攻撃ができるようなスキルを取得して、迷宮の攻略をしてみたんだ」


 他にも特殊なスキルは持っているが、今のイルンの疑問への回答としてはこれが最適だろう。

 俺の言葉に、イルンはしばらく考えるような素振りを見せたあと、短剣をしまいながら俺の上からどいた。

 ……どうやら、ひとまずここで斬りかかられるようなことはなさそうだ。

 ほっと息を吐いていると、イルンは考えるように顎へ手をやる。


「……追放者はレアなスキルを持っているというのは聞いたことがあるよ。彼らのスキルは能力測定でも表示されないから、追放者たちが生き残るためにホラを吹いている、という話ではあったけど……確かに、それなら一人でEランク迷宮を攻略することも……できるね」


 ……そうだったのか。

 この世界の誰も取得できないスキルは、もしかしたら測定などでは表示されないのかもしれない。

 それは、追放者にとっての大きなアドバンテージになるのかもしれないが……イルンが言った通り、そもそも追放者たちのスペックが低いせいで、ただのホラ吹きと思われるなんて悲しいものだな。

 イルンは俺の隣に腰掛け、それから申し訳なさそうに両手を合わせた。


「すまないね。僕としては君が何かを企んでいるんじゃないか、と思ってね。……はっきり言って、あの魔法をいきなり背後から叩き込まれたら、僕たちはひとたまりもないからね」

「パーティー登録してあれば、当たらないだろ?」

「脱退は自由にできるんだから……そりゃあ気にはなるよ。どうして隠していたんだい?」

「……まあ、特別なスキルっぽかったしな。出る杭は打たれる、っていうけど、変な嫉妬をかうこともあるだろ?」


 イルンたちはともかく……レヴィートたちに対して、俺はあまり信用がなかったし。

 嫉妬されて、変なことをされたら最悪だからな。


「まあそうだね。珍しいスキルを持っている人は、有名パーティーから声をかけられることもあるね。それを断った人が消される、とかね。自分のものにならないなら消えたほうがいい、と考える人は確かにいるよ」

「そうだろ? まあ、だから無理に話さなくてもいいかなと思ってな。別にやれることが増える分には皆からも文句は出ないだろうし……でも、そっか。隠していると何をされるか分からない、と思われちゃうよな」

「……まあね。僕たち冒険者は油断している相手を一撃で屠れてしまうようなスキルを持っているからね。僕たちだって、仲間皆を信じ切っているわけじゃないよ」


 それは、少し悲しいことだけど、それだけの力を皆が持ってるんだもんな。

 ……なるほどな。

 俺は小さく息を吐いてから、頭を下げる。


「悪い。隠し事をしてて」

「いや……色々と事情があったことは分かってるよ。僕のほうこそ、疑ってしまってごめんね?」


 お互い、謝罪しあい、それで終わりだ。

 イルンがベッドでゴロンと転がり、俺は押し倒されていたベッドから体を起こす。

 ……隠し事は良くないよな。

 俺はもう一つ、イルンに隠してしまっていることがある。

 それも聞いておこうか。

 俺は自分のベッドへ移動し、腰かけ、


「なあ、イルンって女なのか?」

「みぃ!?」


 ……隠していた疑念をぶつけると、イルンがその場で跳びあがった。



―――――――――――

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