第16話


「ちっ、後ろでのんびり見てやがるから余裕そうだな……っ。おい、ゴーグル! エリートゴブリン六体は任せた!」

「ああ、任せろ!」


 そこでゴーグルは後退しながら【挑発】を放つ。うまく、エリートゴブリンたちだけを引き付け、後退していく。

 エリートハイゴブリンもそちらへ向かったが、それまで気配を消していたイルンがエリートハイゴブリンの前に立ちはだかり、向かい合う。


 エリートハイゴブリンとイルンが正面から戦闘を開始する。……速度はイルンのほうが速いが、イルンの攻撃はエリートハイゴブリンの皮膚を破るほどまではいかない。


 背後からの奇襲なら話は違うのかもしれないが、正面からではまるで効いている様子はない。

 だが、イルンに注目は集まった。


「ミリナ、エリートハイゴブリンのみを狙って魔法を使ってくれ」

「分かってるわっ」


 ゴーグルは……うまく立ち回れている。むしろ、先ほどのように乱戦状態でなくなったからか、俺のバフとデバフだけではあるがゴーグルはエリートゴブリンたちの攻撃に耐えきっている。

 無茶なときはその場にとどまらず、後退してかわしているしな。


 何度か体に攻撃をもらっているが、フィアの回復が余裕で間に合っている。


 ミリナの魔法の準備が終わったようだ。

 エリートハイゴブリンにもきっちりデバフが入っているのを【鑑定眼】で観察したところで、ミリナの魔法が放たれた。


「【フレイムドラゴン】!」


 放たれた魔法は、火の竜だ。エリートハイゴブリンへと迫り、一度はそれをかわした。

 だが、火の竜は追撃し、エリートハイゴブリンの肩へと牙を突き立てた。


「があああ!?」


 魔物の体は霧でできているはずだが、肉の焦げる音がした。火の竜はそのままエリートハイゴブリンの肩をえぐりとった。

 エリートハイゴブリンが膝をつき、大きな隙となる。


「【閃剣】!」

「【クロスポイズン】!」


 エリートハイゴブリンとイルンの攻撃がエリートハイゴブリンを捉えた。

 吹き飛んだエリートハイゴブリンの体から霧が生まれたが、まだ立ち上がる。


 見れば、傷口はすべて霧が治していた。

 ただ……相当のダメージを受けたようで、その動きは先ほどよりも明らかに遅い。


 イルンの毒も入ったようだ。じわじわと削っていっているようで、エリートハイゴブリンの表情は険しい。

 それでも、受けた傷を叩き込まんとばかりにイルンへと迫ったエリートハイゴブリンだったが、その体を火の矢が打ち抜いた。


「【ファイアショット】!」


 ミリナの魔法だ。さらにもう一度放たれると、エリートハイゴブリンは吹き飛んだ。

 地面に倒れたエリートハイゴブリンは……もう起き上がらない。

 霧となって消滅していったエリートハイゴブリンのところには、魔石と剣が落ちていた。

 俺はすぐにエリートゴブリンたちを見たが……そちらも消えていた。どうやら、ボスがやられたことで消滅したようだ。

 ゴーグルが疲れた様子でいたが、笑みを浮かべてレヴィートのほうへと駆け寄っていった。


「おお! やったぜ! 武器ドロップじゃねぇか!」


 おお、装備品がドロップしたのか。イルンから聞いていたが、中々レアらしいな。

 嬉しそうな様子のレヴィートはさらに魔石も回収している。

 ……とりあえず、Cランク迷宮のボスを倒せて良かったな。


「剣はオレがもらうぜ。この中で一番剣使えるのはオレだからな」

「それはいいけど、さっさと脱出するわよ。もう疲れたわよ……」


 ミリナがそういうと、レヴィートも上機嫌なようで特に文句も言わずに従った。

 イルンに用意してもらった【ダンジョンワープ】で、俺たちは迷宮の一階層へと移動し、そこから外へと出た。



 無事Cランク迷宮の攻略を終えた俺たちは、ギルドへと戻ってきた。

 早速、ギルド職員に回収した素材を渡すと、


「れ、レヴィートさんたち、Cランク迷宮を攻略されたんですか!?」


 かなり驚かれてしまった。

 その反応がレヴィートには嬉しかったようで鼻高々に語りだす。


「まあな。おまけに、追放者という足手まといありでな」

「はぁ? さっきの戦闘、レンのおかげで勝ったようなものでしょうが!」


 ミリナが叫ぶと、ちょうど近くにいた冒険者たちが笑い出す。


「おいおい、追放者のおかげで勝ったって言ったか!?」

「え? おまえらのパーティーって追放者なんかが入っただけで強くなるくらい弱いのかよ……っ」


 周りの冒険者がゲラゲラと笑いだし、ミリナの怒りゲージが溜まっていく中、レヴィートとゴーグルが声をあげる。


「んなことねぇぞ! 追放者はただ荷物もって、後ろにいただけだからな。こいつ、戦闘中棒立ちで何もしやしねぇんだよ」

「ほんとな」

「……いや、支援魔法ずっと使ってくれてたし、ボス戦で作戦の指示出したでしょうが!」

「オレがわざわざ採用してやったんだ。感謝くらいしてもらわねぇとな。おい、追放者! そういえば感謝の言葉聞いてねぇぞ!」

「……」


 え、これ俺が言うの? レヴィートとゴーグルが睨んできたので、ぺこりと頭を下げておく。


「ありがとな」

「そうそう。まあ、後ろにいるだけなんだからあのくらいはやってもらわないとな。おい、追放者。今日の売り上げを確認するからさっさと荷物を受付に出せ」


 背中を軽く蹴られて前に出される。

 俺は背負っていたリュックサックを職員のほうに差し出しながら、【アイテムボックス】にしまっていた素材をすべてリュックサックに出す。

 すべての素材が入ったリュックサックをテーブルへ置くだけでも苦労した。たぶん、これ担いだままでは俺はロクに歩くこともできなかっただろう。


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