第12話

 六階層に進んだところで、魔物たちが明らかに一回り強くなった。

 まず、レヴィートの攻撃一発で仕留められなくなった。

 スキルを使っても耐えられるようになる。

 また、ゴーグルも同じだ。これまで余裕をもって耐えられていた彼が、よろめくことが増えた。


 魔物の数も増えている。これまでは1から多くて4体までだったが、今は平均が3体、多いときで6体が同時に出現する。

 ……こうなってくると、パーティー全員が戦闘に参加する必要がある。


「こっちに来い!」


 ゴーグルが挑発スキルを放ち、エリートゴブリン6体を引きつける。一斉に襲い掛かったエリートゴブリンの攻撃を、ゴーグルは剣と盾で捌いていくが、よろめく。


「ちっ! 支援魔法弱いんじゃねぇのか!」


 ……責任を俺に押し付けないでくれ。少なくとも、今持っている俺のスキルでは全力だ。

 それで弱い支援魔法使い、というのであれば……それは申し訳ないんだが。

 傷を負ったゴーグルだが、すぐにフィアが治療をしていくのでほとんど無傷だ。


 ……痛覚を遮断するスキルもフィアが持っているそうなので、ゴーグルは急所にならない程度に攻撃を受け続け、挑発スキルを使用していく。

 その間に、俺はエリートゴブリン一体ずつに、【筋力弱化】、【速度弱化】を付与していく。


 ……この階層に来てから思ったのは、こちらの攻撃力をあげるための【体力弱化】を付与するよりは、相手の攻撃力を押さえる【筋力弱化】のほうがいいと思い、入れ替えていた。


 エリートゴブリンたちにデバフを巻き終えると、ゴーグルも攻撃を食らうことは少なくなっていく。

 その隙を見て、レヴィートとイルンがエリートゴブリンの背後から斬りつける。


 一撃では仕留められないので、そこにミリナの魔法攻撃が加わる。放たれた火の矢がエリートゴブリンの体を貫通し、仕留めた。

 そこで一度ミリナに注目は集まるが、再びゴーグルが【挑発】で引きつけ直す。


 ……【挑発】は敵の怒りを誘い、注意を集めるスキルだが、その分敵の攻撃が苛烈さを増す。

 ゴーグルが再びよろめくことが増えたが、その隙にレヴィートとイルンの一撃を食らった一体が落ちる。


 さらにミリナの放った火の嵐がエリートゴブリン三体を巻き込んで燃やしていく。

 倒しきれなかったが、かなり弱っていたようで、イルンとレヴィートがトドメをさす。


 そこまで行けば、もう安全だ。残っていたエリートゴブリンは定石通り、ゴーグルが引き付け、イルンとレヴィートが仕留める。

 戦闘が終わり、アイテムがドロップする。

 俺とイルンが【ドロップアップ】をつけているからか。あるいは【運強化】のおかげかは分からないが、戦闘を終えたあとのアイテムがドロップも増えている。


 まあ、俺の手元に入るお金が増えるわけではないが、レベル上げを手伝ってもらっているのだからこのくらいはしてもいいだろう。


「おい、追放者! 支援魔法が遅いんだよ! 滅茶苦茶殴られたじゃねぇか!」

「悪い」

「ほんと……早いところ、本職を雇いたいもんだぜ」


 レヴィートとゴーグルが苛立ったように叫び、こちらに手を向けてくる。

 飲み物を用意しろ、ということだろう。

 俺はリュックサックに手を突っ込みながら、【アイテムボックス】から飲み物を取り出して二人に渡す。

 ……【アイテムボックス】も珍しいスキルみたいなので、なるべくバレないようにしないとな。


 フィアも、【アイテムボックス】のスキルは欲しいそうだが、これは珍しいスキルで誰でも持っているわけではないようだ。


 手に入れられたら、キンキンに冷えたアルコールが飲み放題になるのに……とフィアは話していた。もしもばれたら、アルコール係にさせられそうなので、隠しておかないとな……。

 イルンが周囲の警戒をしている中で、ミリナとフィアは何か考えるように腕を組んでいた。


「どうしたんだ?」

「え? ああちょっとね。あたしたち戦闘をしたっていうのに全然魔力減ってないのよ。フィアと相談してたんだけどどうしてだと思ってね」

「ああ、それなら俺が【マナリジェネ】を使ってるからだな」

「……え? 【マナリジェネ】? どんなスキルなのよ」

「魔力の自然回復量を上げるスキルだ。……ただ、ここから先進むってなると前衛の人たちももっと強化できるようにしたほうがいいよな」


 ……今でかなり苦労しているからな。

 俺のデバフ魔法が遅れるか、フィアの回復魔法が遅れるかするとゴーグルが倒れる危険が出てくる。


「……【マナリジェネ】、便利ね。普段だとあんだけの戦闘のあとって魔力も空っぽになっちゃうのよね。だから、マナポーションを使うんだけど……それが不要ってお金に余裕が出てくるわね」

「そうなんだな。とりあえず、魔力が全回復するまでは使ってるから、ある程度は気にしないで使っていけると思うぞ」


 どのくらいで全回復するかは分からないが、前衛の人たちもスキルで魔力を消費しているようなので、【マナリジェネ】も戦闘中からほぼ全員に使用している。


「そうね……こんだけ魔法連打できるとなると、あたしの素の魔力も成長すると思うわ」

「素の魔力?」

「ええ。魔力って使った分だけ成長していくのよ。まあ、ちょっとずつだけどね? そういうわけで、どれだけ魔法を使えるかって結構大事なのよ。ね、フィア」

「ええ、そうですね。普段は回復させるために魔力を温存していますが、これなら私も攻撃に混ざっても問題ないかもしれませんね」

「そうね。ゴーグルの回復が間に合うなら、フィアも攻撃に参加してさっさと片づけちゃったほうがいいわね」


 後衛二人は色々と話し合っているようだ。

 ……なるほどな。

 ちょっとずつ俺の魔力が増えていると感じていたのは、レベルアップではなく俺が魔法を連発しているからなのか。


 追放者でも魔力は成長するのなら、追放者が支援魔法使いを選択するのはわりとありな選択かもしれないな。

 今の俺のように、ステータスを一切強化しなくても最低限の仕事はできるし。


「おまえら、先に進むぞ」

「え? まだ進むの? さすがに厳しくなってきたんじゃない?」

「馬鹿いえ。ゴーグルがまだ大丈夫そうだからな。ゴーグルがまったく受けきれなくなるまでは行けんだよ。な、ゴーグル」

「……お、おう。まあ、追放者がもっと優秀なら、あんなに苦戦することもねぇんだけどな」


 そう憎まれ口をたたきつつも、ゴーグルはちょっと疲れたような表情だ。

 ……まあ、あんだけ押し付けられてたらそうだろうな。


「ほんとな。とりあえず、Cランク迷宮のボスぶっ倒せるまで成長して、Cランクに上がんだよ。上がれば、もしかしたらちゃんとした支援魔法使いの奴らがパーティーに参加してきてくれるかもしれないだろ?」


 どうやらレヴィートがぎりぎりの場所でレベル上げをしているのは、そういう理由があったようだ。

 まあ、俺としても皆が危険じゃないのならそのほうが早くレベルアップできるからいいんだけど。


「……まったく。イルン。いつでも逃げられるように【ダンジョンワープ】の準備だけしておいて……」

「そうだね。僕も死にたくはないからね」


 レヴィートたちは歩き出し、俺たちもその後を追っていく。

 【ダンジョンワープ】は迷宮内の行ったことのあるフロアへと移動できるスキルのようだ。

 俺もすでに取得可能なスキルだ。まあ、イルンが所持しているなら無理にとる必要はないよな。


 俺だって無限にスキルが取れるわけじゃない。仲間にお願いできる部分は仲間に任せてしまったほうがラクだ。



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