第9話

 Cランク迷宮の入口は、町からほど近い距離にあった。最近できた迷宮らしく、レヴィートたちは現在ここでレベル上げを行っているそうだ。


 入口は小山のようになっていて、そこから地下へと階段が伸びている。不思議なもので、迷宮の下の部分の土を掘っても、そこには何の空間もないらしい。

 迷宮については、深く考えても仕方なさそうだ。


 中に入ったところで、レヴィートたちが先頭を歩いていく。

 以前と同じく、レヴィート、ゴーグルが前を歩き、フィア、ミリナを間に挟み、最後尾にイルンがつく。

 今回はそのイルンの近くに、俺がいるという形だ。 


 Cランク迷宮は遺跡のような造りとなっている。

 暗い、と思ったのだが迷宮の天井付近には謎の光があった。イルンに聞いたところ、あれは魔石が発光しているそうなのだ。

 迷宮はだいたいああいった照明のようなものがついているらしく、そこまで視界が制限されることはないらしい。

 

 横幅は大人四人が並んで歩けるほど、天井までも大剣などを振り回しても大丈夫なくらい高い。

 もっと陰鬱な空気を想像していたが、迷宮内でもそういったものは感じない。


 どこか皆、ほのぼのとした様子で歩いていたが……イルンが真っ先に反応する。


「魔物が向かい側で出現するみたいだよ」


 イルンはそういって腰にさしてある短剣を手に持った。

 呼びかけに、レヴィートとゴーグルも反応し、レヴィートが剣を、ゴーグルが盾と剣を構える。

 ミリナも杖を持ち、フィアもメイスのようなものを持っていた。


 ……うん。そりゃそうだ。ここは魔物と戦うのだから皆武器を持ってるよな。

 皆が構える中、俺だけ何も持っていない。仕方ないので、戦闘が始まる前に支援魔法をかけていく。

 まだ前衛の人たちを強化するスキルしか持っていないので、レヴィート、ゴーグル、イルンたちに【筋力強化】、【体力強化】、【速度強化】を使用する。


 イルンはまだ後方にて控えている。どうやら周囲の警戒に当たっているようだ。

 そうこうしていると、前方に霧のようなものが集まっていく。それはやがて、魔物へと変化した。


「一階層に出現する魔物は、エリートゴブリンだよ。一階層だと多くても三体くらいしか出ないから、今の僕たちにはがちょうどいいんだ」


 何も知らない俺に、イルンが優しく教えてくれた。

 見た目は醜悪で、肌は赤い。

 手には剣を持っていて、こちらに気づくと飛びかかってきた。


「おら、こっちに来い!」


 ゴーグルが叫ぶと同時、何かのスキルを発動した。恐らくは、魔物の注目を集めるようなスキルだろう。

 ゴーグルのスキルを浴びたエリートゴブリンは、ゴーグルへと飛びかかる。

 振りぬかれた剣に盾を合わせるが、ゴーグルは思いきりはじき返した。


「……ん?」


 ゴーグルは驚いた様子でエリートゴブリンを見ていた。だが、それは他の人たちも同じだ。

 その合間を縫うようにして、ミリナが魔法を放つ。エリートゴブリンはよろめいたが、まだ倒れない。


 すかさず、レヴィートが踏みこみ、剣を叩きつけると、エリートゴブリンは一撃で死んだ。


「……ん!?」


 レヴィートも、驚いたように声をあげる。

 それから、剣と自分の体を見ていた。


「……おい、追放者。おまえ支援魔法使ってたか?」

「ああ。戦闘開始前に前衛組にはかけてたな」


 そういうとレヴィートが嬉しそうに笑った。

 もしかして、評価されるか?


「なるほどな。支援魔法ってのはいいな。追放者なんかの支援魔法でここまで変わるなんてな」

「そんなに変わったのか?」


 俺は使う前の状況を知らないので、分からない。

 俺の質問に答えたのはミリナだ。


「……変わってたわね。今までゴーグルってエリートゴブリンに攻撃されてもあんな簡単にはじき返せるほどの力はなかったわ。でも、今は問題なく捌いていたでしょ?」

「そうだな」

「レヴィートも一撃で仕留めるような火力はなかったのよ。あたしとレヴィートの攻撃を数回当てて倒す、って感じだったわ」

「……なるほどな」


 ってことは、それだけ支援魔法は強力ってことなのか。

 皆が驚いていた理由もよく分かるな。


「……さっさと追放者じゃない、ちゃんとした支援魔法使いを見つけないとな」


 レヴィートがそういうと、ゴーグルも頷く。


「確かにな。追放者程度でもここまで違うんなら、本職の奴らだったらどんだけ変わるんだって話だもんな」

「ほんとな。つーか、上級パーティーはずるいよな。火力が二倍近く変わるような支援魔法使いが、募集しなくても向こうからくるんだろ? 上級パーティーと下級パーティーの間に格差も生まれるって話だよな」


 レヴィートとゴーグルはぶつくさとそんな文句を言いながら歩きだす。


「もうあいつらは……レンをちょっとは褒めたっていいじゃないの。レン、気にするんじゃないわよ」

「ああ、ありがとな。ミリナに褒めてもらったから十分だ」

「褒めてないわよ! まったくもうっ」


 ミリナはふんと腕を組んでそっぽを向き、俺たちは一階層でのレベル上げを行っていった。




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