第5話
冒険者ギルドは、大きな建物だ。
冒険者ギルドに続く道には、酒場や食事処が並んでいて、フィアがきょろきょろと周囲を見回していた。今にも飲みに行きたそうな顔である。
先頭にいたレヴィートがギルドに入り、受付に向かう。
受付嬢のところにたどり着くと、受付嬢に声をかけていた。
依頼達成に関しての報告、それから俺のほうを親指で示した。
「こいつ。冒険者登録したいそうだから、あと任せていいか?」
「かしこまりました」
「おい、レン。ここで冒険者登録できるから、ほらさっさとやってみてくれ」
レヴィートの言葉に従うようにして、俺は頷いた。
ギルド職員の前に立つと、彼女は丁寧に頭を下げる。
「初めまして。これからあなたの登録を担当することになります。受付のミレイです。よろしくお願いしますね」
元気な女性だな……。
明るい茶色い髪に、整った顔立ちの女性だ。
年齢は20歳前後といったところか。
美人というより可愛い系の印象を受ける。
俺も軽く会釈をしてから、ギルド職員の前に置かれた椅子に腰かけた。
「それでは、まずは能力測定を行いたいと思います。こちらの水晶玉に触れてくれますか?」
「分かりました」
言われた通り手を触れると、水晶玉は赤く光を放った。
その光をみた瞬間、露骨に空気が一変した。
「……赤ってことは――」
「……なんだよ、追放者かよ」
不機嫌そうな様子のレヴィートとゴーグル。
首を傾げながらも、水晶玉の上に俺の偽装したステータスが表示されている。
「ステータスは……確認できました。支援魔法使い、サポータータイプですね。……それと、お客様。一つだけ確認しないといけないことがあるのですが」
「なんだ?」
「お客様は『追放者』でしょうか?」
「追放者……?」
俺が首を傾げていると、レヴィートがいらだった様子で声を荒らげた。
「元の世界じゃ弱すぎて、別の世界に飛ばされた奴らのことだよ! おまえ、この世界の人間じゃないんだろ?」
「……ああ、そうだな」
さっきの光が原因で、バレたのだろうか?
レヴィートの態度が露骨に変わってしまったため、俺は困惑するしかない。
「なんだよ。追放者なら、ここまで案内しなきゃよかったぜ。おい、ゴーグル。もう行こうぜ」
「そうだな。支援魔法使えるから期待したってのによぉ。追放者の雑魚とか拍子抜けだぜ」
レヴィートとゴーグルはそう言ってギルドを出て行ってしまう。
耳を澄ませば、周囲の冒険者たちからの悪口も聞こえてくる。
『異世界人』、『追放者』、『雑魚』……といった言葉だ。
……あまり、歓迎されてないよな。
困っていると、ミリナが申し訳なさそうな表情とともに小さな声で教えてくれた。
「色々と困惑してるみたいだから、簡単に説明するわね。追放者、まあ簡単に言うと異世界人なんだけど……その人たちって、基本的に弱いのよ。この世界に適応できないからか分からないけど、レベルアップに合わせて成長するはずの基本ステータスがまったく成長しないの。だから……まあ、その。冒険者は辞めたほうがいいわ」
ミリナの説明で、レヴィートや周りの人たちの反応の理由が分かった。
……それと同時に、街行く人たちのステータスが結構高いと思った理由もな。
レベルアップに合わせてステータスが自動で上がり、ボーナスポイントが入るとなると俺の持っている【ボーナスポイント獲得量アップ】もそこまでずば抜けたスキルではない気がしてきたな。
「元の世界から厄介払いされた人たち……だから、追放者、ってことか?」
「……まあ、そうね」
実際のところ違うのだが……元の世界で弱いからその世界から不要で捨てられてこの世界に来た、くらいに思われてしまっているのかもしれない。
「でも、支援魔法使いとしてなら一応需要はあるんだよな?」
「……そうね。そもそも支援魔法使い自体が少ないから……でも、本当に危険よ? それに、追放者たちは冒険者カードにその記録が残されるのよ。だから……その、どこに行ってもあんまりいい扱いを受けないというか」
周りの人たちの反応的に……そうなんだろうな。
むしろ、イルンやフィアはあまり気にしていない様子で、そのほうが珍しいのかもしれない。
「とりあえず、冒険者登録だけはしたほうがいいだろ? 追放者としても、身分を証明するものが何もないとそれはそれで大変そうだし。心配してくれてありがとな」
「別に心配とかしてるわけじゃないから。まあ、あんたが理解した上で登録するっていうなら止めないわ」
ミリナは少しだけ怒った様子を見せてから腕を組んだ。それでも、彼女の優しさは十分に伝わってきていた。
話も終わったところで、冒険者登録を行っていく。
あとは基本的にギルド職員に任せるだけだ。
……それにしても、この世界に来る前の時点で……俺たち追放者の立場は決まっていたんだな。
この世界に来る前、スキルを選択させてもらった。
あれは善意でもなんでもない……。
選別だ。
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