第5話 記憶のすり替え
しかし火の玉になる以上、強い危機感を持って臨まなければならない。だが今の俺には、金がない。何をやるにも金が必要だ。ポケットマネーくらいあったって良いじゃないか。そう考えながらしばらく歩いていると、何やら揉めている人たちがいた。協調王国なのにらしくない。俺は近づいて聞いた。
「どうしたんです?」
「金がないのに、こいつが税金を徴収するって言うんだ!」
「お金ならそこにあるじゃないですか」
「これは子どものためのお金だ。お前たちに払う金なんか余っていない」
どうやら税金で言い争っているようだ。丁度いい。『検討士』スキルが持つ唯一の技、『検討加速』で揉め事を無くしてやろう。
「『検討加速』せよ」
言い争っている両者を対象に、検討ループに入らせる。それが単純ながらも、効果の高い解決手段であることは想像に難くないだろ。
「税金拒否の検討、検討……。駄目だ。考えを巡らせ、検討を持続させないと」
「税金の平等、平等、検討……。検討の公平性について検討しなければ」
「検討は済みましたか?」
俺は優しく笑顔を見せて尋ねた。
「はい……。ですが何を考えていたのかさっぱり……」
「私もです。何かあってここに来たような気がするのですが……」
「記憶にないというのですか?」
俺はわざとらしく咳ばらいをし、平常心で振舞った。
「新しい協調主義を掲げる私のために、献金をする。お二方とも、そうおっしゃっていたではないですか」
税金で争っていた両者は、顔を緩ませると笑みをこぼした。
「なんだ、そういうことだったか。それならここにあるお金の一部を」
「それでしたら、微々たる金額ですが私も」
そう言ってお金を差し出してきた彼らに、俺はお礼を伝えた。
「ありがとうございます。献金してくださったお金は、大切に使わせていただきます。お二方とも体調には気を付けて」
だが、それを終始見ていた男性が、俺に大股で接近してきた。
「ど畜生め。何、人から金を騙し盗ってんだ!」
「どんな風に呼ばれてもかまわないと思っております。私は、状況の変化に応じて適切に対応しただけです」
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