第4話 検討と決断
不機嫌な顔を保った王様が、身体を震わせながら尋ねる。
「それでどうやって救うと?」
「検討してください」
「分からぬから問うているのが分からないのか!?」
「あらゆる選択肢を排除せず検討しましたが、そこまでは分かりませんでした」
やはり心が落ち着かぬようで、王様は拳を強く握りしめている。部下がいなければ、暴言を浴びせるつもりなのか。それとも暴力で分からせるつもりか。二択を前に、検討が検討を引き寄せ、新たな境地へと達してしまう。その直前に検討をやめた俺は、自ら説明責任をもって答えた。
「一言で言えば、『検討加速』を駆使して争いを無くします」
「そんなことできると思っているのか?この世界の人口が何人か知ってるのか?」
「関係ありません。私はその度に、最善の方法を模索するだけです」
チートスキルの『検討士』。そして鋼のメンタル。これらさえあれば、恐れるものなど無いに等しい。
「世界を救うのはとてつもなく難しいんだぞ?」
「当然です。今を生きる我々が将来世代への責任として対応しなければ」
「お前、他人事みたいな言い方だな」
「指摘は様々、課題も様々。ですが私は、さらなる対策が必要かどうかしっかり考えたうえで、自ら先頭に立ち、この問題に取り組んでいきます」
つまり、すぐにやるとは言っていない。このような受け答えは、総理時代に習ったものだが、思い返すと案外役立つフレーズが多い。いや、むしろ検討の語彙が豊かになったのは、俺の気の性ではなく、『検討士』スキルによるものか。断定できない上、現実的な検討が必要かもしれない。
「要は、やってくれるということで良いんだな?」
「出来る限り善処します」
「期待している」
すっかりご機嫌になった王様に連れられ、俺は外に出された。俺がいたのは城の中だったらしい。空を見上げれば、黒い雲の下を、巨大なドラゴンの頭が旋回しながら、火を噴いている。少し前から検討していたが、ここは、俺の住んでいた世界とは全く違う異世界で確定なようだ。
「王様の信頼に応えるため、火の玉となって取り組んでいくか……」
俺は、身体のないドラゴンの頭が吐く炎を見ながら1人、そう呟くのだった。
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