第3話 最弱にして最強

「なんだ、何も起こらないじゃないか」


 スキル発動を宣言した俺を見ても、何の変化も起こらないことを、王様が不満げに漏らした。


「いえ、既に起こっています。お気づきではありませんか?」

「なんだ、この頭の中に流れてくるものは!?」

「すべて検討を意味した表現です」

「お前まさか……」


 王様が察したような顔で、俺を睨む。だが残念ながら、『検討士』というスキルを手にした俺に、そんなものは通じない。


「そのまさかです。私は今、戦えない最弱スキル『検討士』を手にしました。必殺技も、『検討加速』のみしかありません。ですが、このスキルは最強でもあるので、誰も私には敵いません。メンタル面に関して言えばですが」


 王様は憤怒した。使えぬスキルを手にしやがってという顔だ。でも、鋼のメンタルも手にした俺にはノーダメージ。


「世界を救ってくれと言っただろう!?」

「言いましたね。なので、私はこれで世界を救います」

「ふざけたことぬかしおって。とっ捕まえろ!」


 部下たちが慌てたように動き出し、全方向から迫ってくる。逃げ場はない。だが、大胆な検討を行えば、結果は違ってくる。


「『検討加速』せよ!」


 俺の高らかな声とともに、王様の部下たちの動きが止まる。


「俺たちはどうするのが最適なんだ?」

「もっと検討しないと」

「1度だけの検討じゃダメだ」


 王様の部下たちがそれぞれ言葉を発しながら、次第に互いの顔を見合わせる。そして遂には、王様の部下の1人が間抜けな声でこう言った。


「俺たち、何しようとしてたんだ?」


 王様は憤りを増長させながらも、何度やっても同じという結論に達したらしく、小さく舌打ちした。


「何が起こったか把握できていないようですね」

「お前、部下たちに何をした?」

「検討させただけです。検討に検討、検討と無限に重ねていけば、どうなるでしょうか?検討していた内容さえ忘れて、検討したという事実だけが残ります」

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