第1章 幼少期編

第3話 良い人生を目指しましょう

「ニケロ起きろっ!」

「っ!」


 寝ている所を怒鳴られ突き飛ばされベッドから落とされる。

 何だ? 泥坊か? 部屋には大したものは無いぞ?


「仕事の時間だ」

「えっ?」

「良いから起きろっ!」

「うっ!」


 なんか見た事も無い少年に肩のあたりを蹴られた、痛みは特に無いけれど不快だ。

 というか誰だよニケロって!

 ニケロ!? あれ? 僕はニケロだ? あのボロアパートで過ごした記憶は? あれ? 夢?


 周囲をキョロキョロ見回すと見覚えのない部屋の様にも思うけど見覚えがある・・・不思議な感覚だ。

 けれどあのボロアパートで過ごしていた奴が昔いた孤児院にどことなく似ていると思う。


「何だ呆けているのか?」

「いえ・・・」

「今日は俺達が水くみと芋の皮むきの当番だぞ? お前は水くみ担当だからな?」

「あぁ・・・」


 取り合えず情報確認だ。水くみをしながら記憶を整理しよう。

 僕はニケロ、3歳の時の鑑定の儀の時に術理の才能が一切ないと言われ、貴族だった両親に虐待されるようになった。

 何やら痺れる薬を飲まされたり、鞭で打たれたり、術理を体に打たれたりと酷い目にあわされ、5歳に再度鑑定の儀を受けても術理の才能が一切ないと言われ先日孤児院に入れられてしまった。

 孤児院は10歳までに出ていく必要がある。

 出るのは自由だけど一度出たら二度とは戻れない。

 スラムにはいくらでも孤児が居るぐらいの街なので、わざわざ出て行った子を連れ戻す様な真似はしない。


 こっそり隠れて水くみをしなければならない甕に向かって「水」と念じると術理が発動してドバドバと水で満たされていく。

 そうだ・・・あの時ステータスを割り振って使えるようにしたんだ、さっき同室のカカラに肩を蹴られても痛くないのは防御力を上げたおかげなんだろう。

 そうか・・・ここは異世界なんだ・・・。


 あのウィンドウ画面は異世界のニケロに転生するためのものだったのだろう。

 若しかして弱ったニケロはあの時に死んで僕が入れ替わったのか?

 行き詰った人生から現在行き詰っている人生に移った感じだけど、才能の塊でステータスをしっかり割り振ったニケロならどうとでもなるような気がした。


「よし・・・僕は人生をやり直すぞ!」


 『はい』を押したときにウィンドウ画面に表示された『良い人生を』という文字を思い出す。


「誰かは分からないけれどありがとう」


 僕は塞がっていた人生が一気に開いたような感じがした。この世界は前の世界より文明が進んで居ない。町は不潔だし、あちらには貧乏人でも普通に持って居たような便利な道具も殆ど存在しない。

 けれど何なんだろう、このワクワクとする様な高揚感は。

 今までよりは生活するのが大変そうな世界なのに、周囲に比べて恵まれた能力を持って居るというだけでこれからの事に希望を抱けてしまう。


「水くみが終わるのが早すぎると不審がられるな・・・」


 僕は桶持って井戸とキッチンスペースの水甕の間を何度も往復して時間を潰しながらこっそり術理の練習をした。

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