第5話、拾った時計

「あんまり人に戻れる時間ないんだから、さっさと出かけて食べようぜ」


ぽてぽて歩くうさぎさんは、玄関先でかわいい靴を履こうとしています。

きっちり服装の乱れも直すと本当に「不思議の国のアリス」です。


そっと玄関に移動して、私の着替える時間をくれるところが紳士です。

口ではなんだかんだと言っても、まじめな方なのがわかります。


「シロさんは、今はどれくらいなら戻れます?」

「んー。4時間が限界かな」

「じゃあ、お店までバッグにどうぞ。疲れるでしょうし、お運びします」

「それさ、カッコ悪くない?歩く速度は遅いけど、普通に歩けるし」

「バッグからはみ出るうさぎさんを見たいのでモーマンタイ」


歩く速度も違いますし、これならシロさんも疲れないでしょう。

人型に戻れる時間も限られている以上、この方が疲れないはずです。


「さあ!!」ちょっと、声が大きくなりすぎました。

「お前、すっげーいい顔してんな。いや、もうなんなの、この子。おじさん疲れたヨ」


そう言いながらも靴を持って、リュックに入ってくれるシロさん。

ちょっと萎れたシロさんを詰めたリュックサック(タオル入り)は、ほんのり温かく、柔らかい感じです。


「キャリーバック買わないとですかね。移動するのに毎回これだとお身体つらいでしょうし」

「ん?別にいらねーヨ。普通にこれでいい。というか、普段は歩くし」

こんなかわいいうさぎさんが街中歩いていたら大惨事です。


「なんか、ツッコミ疲れたから、もういいや。じゃあ、トぶけど、何処にすル?」

「シロさんは何食べたいです?お酒以外で。あ、あまり高いとこはちょっと」

「それは安心しろヨ。俺様、お前ぐらい養う甲斐性あるシ」

「えー、うさぎさんに養われるのは、恥ずかしいので遠慮します。でも、ゆるリタイアな感じでJIT推進部みたいな見回り仕事で残業なしで、それなりに美味しいもの食べてヨギボーでゴロゴロしたいので、その時はお願いします!」

「なんか具体的過ぎて、すげー不安になるナ。とりあえず、その部署にはぜってー言うなヨ。まあ、お前は俺のモノ。俺は大切なモノはきっちり守ルから安心しとケ」


バチっとウインクするシロさん。かっこいいです。

バッグからちょこんと出た頭についついキスしてしまいます。in バッグで手足が出ないシロさんはジタバタしてるけど、それもかわいい。抱えてた腕に感じる温もりが愛おしい。


「お前、いつまでもそうして勝てると思うなヨ」

「え」

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